K'sBookshelf 資料本能寺の変本能寺の変ゆかりの地－粟田口

天正十年五月廿九日、織田信長、上洛し本能寺に投宿する－粟田口－

蹴上駅付近

京と安土や坂本など東国との往来に東海道・東山道を使う場合は、山科から蹴上(けあげ)を経て、この蹴上駅付近から西(写真の左方向)に折れ、京に入ります。
山科からは上り坂で、この蹴上駅付近が最も高く、これから先、京に向かって下り坂になります。
通常、信長も光秀も安土・坂本との往来には、この道を利用することになります。
天正十年五月廿九日、吉田兼見らは、信長上洛の知らせを受けて、この先の山科まで迎えに出ました。

信長御上洛爲御迎、至山科罷出、數刻相待、自午刻雨降、申刻御上洛、御迎各無用之由、先へ御乱(森長定、乱丸)案内候(之カ)間、急罷歸了、[兼見卿記(正本)、天正十年五月廿九日条]

信長が上洛するというのでお迎えのため山科まで出る、数刻待つ、午刻(正午頃)から雨が降り出す、申刻(午後四時頃、別本では未刻[午後二時頃])に入洛するという、森乱丸が(信長の到着を待つことは)無用と伝えに来たので、出迎えに出た各々は急ぎ帰った、

御小姓衆二、三十人召し列れられ、御上洛。直ちに中国へ御発向なさるべきの間、御陣用意仕り候て、御一左右次第、罷り立つべきの旨、御触れにて、今度は、御伴これなし。[信長公記、天正十年五月廿九日条]

(信長は)小姓衆二、三十人を引き連れ上洛。[直ちに中国へ向かえるよう用意をして、連絡があり次第出陣せよ]との命令で、そのため今回は供が(小姓衆を除いては)いなかった。

写真の左方向(西)に折れた辺りから、現在の東山三条辺りまでを、粟田口と呼びます。
当時の京への入口は、七つあり、[京の七口(東寺口・丹波口・鳥羽口・粟田口・鞍馬口・大原口・荒神口)]と呼ばれ、粟田口はその一つです。
現在の三条通りは、もう少し進んでから、西(写真の左方向)に折れ、長い下り坂を下り、京に入ります。

赴_二東國_一者專自_二三條橋_一過_二下粟田口_一出_二大津_一者是近世之事而是稱_二大津海道_一　[雍州府志]

東国に赴く際には、もっぱら、三条の橋より、粟田口を過ぎ、大津に出る、これは近年([近年]がどの程度まで指しているかは不明ですが[雍州府志]の成立は本能寺の変の約百年後)のことで、この道を大津海道(街道)という。

蹴上交差点から山科方面を望む

撮影場所(Google マップ)

蹴上交差点から、山科方面を望んだ写真です。
写真奥から進んで来て、蹴上交差点手前で西(写真の右方向)に折れます。
ただ、折れた辺りは、ウェスティン都ホテル京都で、道はありません。

旧東海道・東山道良恩寺付近から西を望む

撮影場所(Google マップ)

蹴上から500m程下ったところです。(現在は、途中400m程道は途絶えています)
現在の三条通よりも、50mほど南を走る通りですが、この道を直進すると、鴨川手前辺りで合流します。
そのことから、この道が旧東海道・東山道であったのではないかと考えています。
とすれば、当時はもっと広い通りだったのではないでしょうか。

旧東海道・東山道粟田神社前から西を望む

撮影場所(Google マップ)

良恩寺付近から50m程進んだところです。
南側(写真の左手)には、粟田神社が見えます。

本能寺の変ゆかりの地－粟田神社－

旧東海道・東山道神宮道から西を望む

撮影場所(Google マップ)

粟田神社付近から100-150m程進んだところです。
南北(写真の左右方向)に走る道は神宮道(じんぐうみち)で、南(写真の左方向)に行けば青蓮院(しょうれんいん)・知恩院(ちおんいん)、北(写真の右方向)に行けば平安神宮です。
北(写真の右方向)に折れてすぐに、粟田口の石柱があります。
ここを直進(西進)し、白川を渡り、現在の三条通に合流し、更に鴨川を渡ると、入洛です。

粟田口石柱

撮影場所(Google マップ)

粟田神社から150m程進み、神宮道との交差点を北(右)に折れ、すぐの右手(東側)に粟田口石柱があります。
この辺りになると、現在の三条通から、もう20m程しかずれなくなります。
碑左側面に、[昭和四十五年三月京都市]という銘があります。
天正十年六月二日、光秀は、信長・信忠を倒した後、この道を矢印とは逆の方向に進んでいました。

悉打果、未刻大津通下向、予、粟田口邊令乘馬罷出、惟日對面、在所之儀萬端頼入之由申畢、[兼見卿記(別本)、天正十年六月二日条]

(光秀は信長・信忠を)ことごとく討ち果たして、未刻(午後二時頃)大津通(粟田口から山科を経て大津に至る通)を下向、私(兼見)は馬で粟田口辺りまで出て、惟日(惟任日向守、光秀)と対面し、在所(吉田兼見は吉田神社の神主であったことから吉田神社やその寺領のことを指しているのではないかと思います)のことを万端宜しくお願いしたいと申し上げた、

本能寺の変の十二日後、天正十年六月十三日、明智軍は山崎の戦いで敗れ、光秀は[自害[明智軍記]][醍醐辺りで隠れていたところを一揆に襲われ討たれ[言経卿記一]]、重臣斎藤利三は[生け捕られ首を刎ねられ[兼見卿記、天正十年六月十八日条]]ました。
その二人の首塚が、正確な位置は不明ですが、建てられます。

日向守・齋藤内藏助、築頸塚粟田口之東□□(路次カ)之北云々、自廿二日築之云々、奉行鍫原・村井清三、[兼見卿記、天正十年六月廿三日条]

光秀と斎藤利蔵の首塚は粟田口の東□□(路次カ)の北とか、二十二日より築き始めたとか、奉行は鍫原(桑原貞也、織田家の家臣で京都奉行であったらしい)と村井清三(織田家の家臣で京都所司代)、

奉行が桑原と村井ということですから、秀吉の指示だろうと思いますが、どのような意図があったのでしょうか。
更に、明智秀満の父も捕らえられ、生きたまま磔にされ晒されます。

粟田口ニ去　　(マヽ)日ニ、明智日向守(光秀)首・ムクロ等｛｛寸－丶＋(冫－丶)｝＋犬－大｝相續、張付ニ懸了、齋藤(内脱)藏助(利三)同前也、其外首三千余、同所ニ首塚ヲ被築了、今日又明智弥兵次(秀滿)父(三宅出雲)六十三才、召取、生張付ニ同所ニ被懸了、[言経卿記、天正十年七月二日条]

粟田口に去る□(日付の部分が空白になっている)日、光秀の首・ムクロ(首のない胴体)が相次いで磔に掛けられた。斎藤利三も同様に磔にされた。その他、三千余の首が磔にされ、その場所に首塚が築かれた。今日、明智秀満の父三宅出雲(六十三才)が召し取られ、生きたまま磔にされ、同所に晒された。

粟田口由緒書

撮影場所(Google マップ)

粟田口石柱の傍に建つ由緒書です。(2008年と2015年のものです)
2015年に撮影した由緒書には、

粟田口(あわたぐち)とは、三条通(旧東海道)の白川橋から東、蹴上(けあげ)付近までの広範囲に渡る地名である。
この付近は奈良時代以前から開かれた土地で、粟田氏が本拠とし、粟田郷と呼ばれていた。平安京ができると、東国との交通の要地あるいは軍事上の要衝にあたることから、やがて粟田口(三条口)と呼ばれ、京都七口の一つにも数えられた。
鎌倉・室町時代にはここを通って馬借(ばしゃく)や車借(しゃしゃく)など運送業者が物資を運んだ。江戸時代には東海道五十三次の西の起点、三条大橋を間近に控え、人や物資の往来で一層にぎわった。
またこの付近には、平安時代の末以降、刀鍛冶(かたなかじ、刀を作る職人)たちが住居を構えていた。中でも、童子に化けた狐に鍛冶の手伝い(相槌)をしてもらい名刀[子狐丸]を打ったという伝説が残る刀匠・三条小鍛冶宗近(さんじょうこかじむねちか)が有名である。江戸時代の元和年間(一六一五～一六二四)には瀬戸から焼き物の技術が伝えられ、[粟田焼]と呼ばれる陶器の産地になった。この右手にある門跡寺院・青蓮院(しょうれんいん)は[粟田御所]とも呼ばれている。
京都市

とあります。