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      2 判断

       母は、下り坂で感じる何時もの高揚感が、急に加速されるのを意識した。それまで身体を拘束し続けていたものが、少しずつ去り、そして、全てが、去った。後に残るものが何もなくなると、僅かな空白があって、今度は、烈しい失速感が母を支配した。

       母の身体は、地面に落ち、二三度転がってから、奇妙な姿勢の儘、動かなくなった。

       自転車は、ゆっくりと宙を跳んで、水田の中に落ちた。

       少しして、一度は起き上がろうと云う努力をしたかのように見えた母は、しかし、それがどれ程無駄なことかを、考えようもなかったに違いない、・・・。

       一台の対向車が、不幸にも、それを見ることになった。

       赤い車の助手席に座っていた女は、久し振りに合った運転席の男が、急いで車を止めた理由を、「この辺りじゃ、滅多に見られない」事故に対する好奇心よりも、「面倒なことに首を挟めば、碌なことにはならない」と云う経験則に従ったためなのだろう、と考えていた。

       しかし、その咄嗟の判断が、女には堪らなく不満だった。

       フェンダを僅かに凹ませた車は、赤い車の近くまで走ってから、思い出したようにブレーキを掛けた。タイヤは大きな泣き声を立てた。

       車を降り立った男は、自分が走って来た道筋を振り返った。短く、しかし、確かな二本の轍の先には、もう動くことを諦めてしまったものを二つ、見ることができた。

       乗り手を失った自転車と、自転車を必要としなくなった母と、・・・。

      -Aug/21/1997-

      ・・・つづく・・・





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