総合目次のページ 「本能寺の変」に関する資料集です 家康の性格を下敷きに「関ケ原合戦」を考えてみます 当サイトの全ページを一覧でご覧いただけます すべてのページの更新履歴です
辞典や用語集です 絵フォントとフォントのコレクションです ソフトウェアやホームページ用の素材があります 小説です お気に入りのページへのリンク集です

      9 把手

       会社のドアを押したのは、もうそろそろ、長い一日が終わろうかと云う時間だった。

       守衛は迷惑そうに、今、鍵をしたところなんですがね、と言った。

       部屋に明りを付けると、明らかに他とは違っている自分の席だけが目に入った。昼間には、乱雑を極めている筈のどの机の上も、只一か所の例外を除いて、今は、混沌を超越したかのように静かだった。

       二日ばかり留守にしていた席に着き、机の上を眺めると、整理する心算だった書類や伝票が、急に疎ましく感じられた。終わってしまった会議の資料、見積依頼のメモ、既に伝え聞いた伝言、隣の男が片付け忘れた伝票、新しい製品の能書、販売見込みの記入用紙、・・・想像もしていなかった金額の請求書!・・・。

       これからじゃ遅いですか?
       構わないけど、今日帰るんじゃなかったの?
       急ぎの仕事があって、やっと今、会社に戻ったところなんです。
       大変だね。
       疲れました。
       帰った方が良いよ。そう云う約束だったんだろう?・・・今からでも、急げば間に合うんだから、・・・。
       明日にします。
       そう?・・・本当に良いの?・・・大事な話なんだよ。
       これからじゃ、結局、同じですから。
       そうかな?・・・こっちは構わないけど、・・・。
       急いで行きます。

       もう日が替わったと云うのに、街は相変わらずの人混みだった。車を駐車場に入れ、店の前に辿り着いた時には、無駄になってしまった切符と、扉を開けるための最後の力の他には、何も残っていなかった。

       把手に手を掛けた。扉には「CLOSED」の札が掛かっていた。何時もなら殆ど抵抗の無い筈の扉が、その時程、重く感じられたことはなかった。扉に引き摺られながら、店に入った。

       そこには、客の残した煙草の匂いだけがあった。椅子に腰を降ろすと、身体は、その儘、何処までも沈み込んで行くようだった。

      -Aug/23/1997-

      ・・・つづく・・・





総合目次のページ 「本能寺の変」に関する資料集です 家康の性格を下敷きに「関ケ原合戦」を考えてみます 当サイトの全ページを一覧でご覧いただけます すべてのページの更新履歴です
辞典や用語集です 絵フォントとフォントのコレクションです ソフトウェアやホームページ用の素材があります 小説です お気に入りのページへのリンク集です