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26 自由
一時間程して、看護婦がやって来た。 身体から何本もの管を垂らした母が、その先に継った器械を引き摺って、新しい最後の部屋に移った時には、自らの意志で息をしているのかどうかさえ、確認することができなかった。只、モニタに描かれる規則的な波形だけが、微かな慰めだった。 此処では、生と死との差が恐ろしい程に小さかった。そして、それがそうであることに、何の違和感も感じられなかった。しかし、恐らくそれは、この建物から一歩でも外へ出れば、滑稽な程忌わしいことに違いない、・・・そうした、座り心地の悪い椅子に座っていながら、どうしても立ち上がることができないと云うような、内に籠った焦燥がそこにあった。 姉は母の手を握り、叔母は足をさすりながら、繰り返し声を掛けた。声は次第に小さくなった。じっと見ている外には何もできなかった甲斐性のない男共は、それが押し殺したような声に変わると耐え切れずに部屋を出た。そればかりではない、今は、どんなことにも、耐えられる自信がなかった。 部屋を出ると、それを予期していたかのように看護婦が寄って来た。そして、四人は院長の待つ部屋へ案内された。院長は鉛筆を弄びながら、生気のない男達を迎えた。
どれ位保つかな?
何故、容態がこんなに急変したんでしょうね? 叔父は、叔母に院長の話を伝える役を引き受けた。時間の掛かった短い話が済むと、四人は揃って病院を出た。 後は、待つだけになった。 まんじりともしなかった夜が明けた。 夜が明けるのを待っていたかのように、母に纏わり付いていたものの全てが、取り払われた。 母は、自由になった。
-Sep/14/1997-
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