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[小説 時] [51 木偶]

51 木偶

 翌日、身内だけの納骨式があった。あの日から既に一月が過ぎていた。

 おばあちゃん、お母さんが、これから行きますよ、・・・きっと、話したいことが、たくさんある筈なんです、・・・聞いてあげて貰えませんか、生き残った碌で無し共には、・・・もう、お母さんの声が聞こえない、・・・話を聞いてあげることができない、・・・もっと、話をすれば良かった、・・・何時も、金がないとか、見合いはいやだとか、そんなことばかりだった、・・・謝りたいんです、・・・でも、遅いんですよね、・・・解ってます、解ってますが、どうしても謝りたい、そして、許す、って、・・・。

 こんなことになるとは、思わなかった、・・・そうでしょう?・・・でも、分かりましたよ、・・・間違いがなければ、そう、こんなことにはならなかったと云うことが、分かりましたよ、・・・病院で治療を受けるのが、一時間半、せめてもう一時間だけでも、早ければ、・・・こんなことにはならなかった!

 何故遅れたか、おばあちゃん、知ったら驚くでしょうね、・・・その話を聞いた時は、心臓が飛び出すなんて、そんな生易しいものじゃなかった、心臓なんか、もう何の役にも立ちませんでしたよ、・・・選挙が近い、しかも、初めての選挙、だから、不祥事は避けなければならない、でも、事故は起きた、それを聞いて、腰を抜かしたかもしれませんよ、しかし、躊躇している場合ではない、そこで、適当な身代りを立てることになった、そして、秘書が運転席に乗り込んだ、・・・それだけならまだしも、そんなことのために、一時間半も、貴重な時間を無駄にした!・・・信じられないことだ、・・・その間、お母さんは、どうしていたと思いますか?・・・おばあちゃん!・・・お母さんは、車の中で、じっと、待っていたんですよ!・・・助けを、待っていたんですよ!・・・お母さんには、それ以外に、何ができたって云うんです!

 おばあちゃんの、物わかりの良い息子や孫達が、みんな此処に集まっています、・・・ああ、誰も、烏みたいに、これで終わりだと云ったふうだ、何と云う連中だろう、・・・ごめんなさい、・・・でも、良いんですか?・・・本当に、それで良いんですか?・・・許してしまっても、本当に良いんですか?・・・お母さんも、それで納得してくれますか?

 とてもそうは思えない、人の生命を弄ぶようなことが、これ程簡単に許されるとは思えない、・・・しかも、何と馬鹿気た理由だ!・・・揃いも揃って、何と云う木偶の坊だ!・・・少なくとも、僕は、許さない、・・・そう云ったことが、当然だと云うような成行きに、耐えてみようとも思わない!

 彼は、何よりもまず先に、自らが犯した罪を、認める必要がある、そして、償いを、すべきだ、・・・その方法と時期は、彼自身が決めるでしょう、だからと云って、何時までも、待っている訳にはいかない、・・・一年の猶予を、認めることにしましょう、・・・それでも、その意志が見えない時には、どんな制裁にも甘んじる覚悟を、して貰うことになります、・・・彼だけが、免責される理由は何もないのですから、・・・一年、待ちます、それが限界です、それが、僕にできる最大限の譲歩です、それ以上は、・・・待てません、・・・。

 お母さんに、一年、待って欲しいと、伝えて下さい、・・・それ以上、待たせることはしませんと、伝えて下さい、・・・それまで、お母さんを、宜しくお願いします、必ず、報告に来ます、・・・勿論、彼が自らの責務を果たせなかった場合には、それを忌避することに依って手に入れたものと、同じものを、持って来る心算です、・・・。

 おばあちゃん、僕は、そんなに多くのことを、望んでいる訳じゃないんです、無理なことを、望んでいる訳じゃないんです、・・・お母さんを、此処に生き返らせて欲しいなんて、そんなことを望んでいる訳じゃないんです、・・・だって、今更、できることじゃないでょう!・・・その位のことは、分かりますよ、・・・そうじゃないんだ、僕が望んでいるのは、もっと簡単なことなんですよ、・・・事実を、有りの儘を、本人の口から聞きたい、此処で、お母さんの前で、説明して欲しい、・・・たった、・・・それだけのことだ!

-Oct/25/1997-

・・・つづく・・・



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