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[小説 時] [56 廃船]

56 廃船

 帰ってから暫くは、殆ど休む時間もない程だった。例年なら、何度か乗る筈のヨットにも、結局は一度も乗れなかった。

 その夏、太平洋の高気圧が東に寄り過ぎていて、船を出せるような日があまりにも少なかったし、何よりも、船自身が耐えられそうもなかった。毎年恒例にしている、大掃除を兼ねた全員出席が原則のパーティに出席したメンバーの話では、既に補修が追い付かない程に傷んでおり、廃船処分する以外に方法はないだろうと云うことだった。

 みんなは、それで了解してるんですか?
 あなたを除いてはね。
 そうですか。・・・でも、いざとなると、惜しいような気がしますね。
 それは誰でも、同じ気持ちだよ。・・・ところで、新しい船を、どうしようか?
 そうですね。・・・一度、みんなで相談したらどうなんでしょう?
 そのことだけどね、もうこのメンバーは、一旦、解散したらどうだろう。・・・この夏も、人が集まらなくて、二度も、外へ出るのは諦めたよ。こんなことじゃ、折角休みを取っても、がっかりだからね。丁度、良い機会かもしれないよ。・・・この年になると、確かに、他人の都合に合わせて休みを取るのは、難しいんだろうな。
 申し訳ありません。
 良いんだよ。・・・それより、新しい船をどうするか、早く決めないと、係留契約の更新ができなくなるかもしれないんで、その方が心配なんだ。
 新規に申し込むとなると、大変でしょうしね。
 最低でも、一年は待たされるだろうな。・・・で、どうだろう、30位の船は。何とか、二人で動かせるだろう?
 二人で、ですか?
 無理かな。・・・25じゃどう?
 そうですね。・・・でも、遠出する時は、・・・。
 勿論、その時は応援を頼むさ。でも、年齢のせいかあまり遠出をしたいとも思わなくなったね。のんびりと、食事をしたり、泳いだりできれば、それで充分だよ。年齢なのかな?・・・尤も、競走している時のあの緊張感も、なかなか捨て難いけどね。
 一度、処分する前に走らせたいですね。
 娘のテストが済んだら、一度どうだい?・・・ええと、・・・彼女、も一緒に、四人で、・・・。動かすことはできないだろうがね。
 この間の話が本当なら、少し刺激が強過ぎませんか?
 話はしたんだろう?
 しましたが、・・・理解できたとは思えません。
 何時かは知るべきことなんだから、・・・。今か半年後かの違いだけだよ。それも避けては通れない試練さ。
 幾ら何でも、それじゃ可哀相ですよ。
 別れたり、諦めたり、・・・そう云う経験も悪くはない。
 この年齢になっても辛いことでしたがね。

-Nov/2/1997-

・・・つづく・・・



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