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[小説 時] [155 苦痛]

155 苦痛

 何杯目かの酒が胃に収まると、男は急に黙ってしまった。それでも、目の前にグラスが運ばれて来ると、女達の気遣いをよそに、それは自らに課せられた義務でもあるかのように、躊躇なくそれを口に流し込んだ。

 高校でのこの男のことは、何も思い出せなかった。覚える必要もなかった名前を耳にして以来、づっと思い出そうとして来た。それに何らかの意味がある訳ではなかった、只、それだけが、あの時を繋ぎ留めておくことができるような気がしていた。この男に関わるものが、それは非常な苦痛でもあったが、何時でも必要だった。・・・その苦痛も、これで止揚することができる、・・・。

 この店は何時までですか?
 この男が帰るまで、・・・。
 それじゃ、そろそろ帰るとしましょう。
 そうですね。
 何の、相談だ?
 帰りますよ。
 この男はわたし達が送りますから、・・・。
 いや、頼まれて引き受けた以上は、他人に任す訳にはいきませんよ。
 でも、何時ものことですし、・・・。
 酔いを醒ますには、格好の陽気だし、凭れた胃には丁度良い運動ですよ。・・・それに、距離も方向も申し分ない。
 でも、雪が、・・・。
 大丈夫ですよ。
 そうですか。

-Aug/1/1999-

・・・つづく・・・



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