[小説 時] [3 白煙] |
3 白煙
それから、僅かな空白の時間があって、二台の車が動き出したのは、殆ど同時だった。白が憑かれたように後走し始めると、赤はそれに遅れまいとして白煙を吐き出した。それまで静かだった道に、音が戻って来た。車から一番に降りたのは、助手席に乗っていた黄色い服を着た女だった。 男は母の両腕を取った。しかし、母はそれを拒否するかのように動かなかった。 赤い車の二人が手を貸して、母を白い車の後部座席に運び入れると、三人は無言の儘それぞれの車に戻った。再び白い車は勢い良く走り出した。赤い車だけが、そこに残った。 僅かの時間だった。 ねえ、どうしよう? 何が? 助かると思う? 判らない。・・・それにしても、重かったな。 そうね。 どうする? 手が震えてる。 手だけじゃないんだよ。 病院まで行ってみようよ。 病院?・・・何故? だって、心配よ。 関係ないね。 あの男、知ってる? ああ、良く知ってるよ。・・・尤も、あの慌てようじゃ、向こうは気付かなかったろうけど、・・・。 行ってみよう、ね? そうだなぁ。 ねえ、・・・。 分かった。行こう。 追い付くかな?・・・もう見えないね。 大丈夫。任せてくれよ。・・・すぐに追い付くさ。 そうでなくちゃ。 -Aug/21/1997-
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