[小説 時] [15 病院] |
15 病院
病院では、結局、母にも、担当した医者にも、直接会うことはできなかった。何人かの看護婦の話から、左に伸びる廊下の突き当りの部屋に医師と母がいること、朝から始まった診察が今も続いていること、そして、今は誰もそこに近付くことはできないこと、姉は暫く前に、叔父は少し前に帰ったこと、それだけしか分からなかった。後は、殆ど要領を得ない話を聞いただけで、引き下がる外はなかった。病院を出た。陽に晒された儘だった車からは、閉じ込められていた熱気が堰を切ったように吹き出してきた。 家の方には、わたしが連絡しておきますよ。 いや、まだだ。 えっ?・・・店に一度、戻ります。長い間留守にできないもんですから、・・・。 ありがとう。 車、使いますか? そうだね、歩くよりは早いだろうな。 大変なことでしたね。 奥さんは、変わりない? えっ?・・・ええ、相変わらずですね。 もう、随分、会ってない。 正月に会っている筈ですよ。 そうだったかな? もうすぐ、二人目が生まれるって、・・・その話、しましたよね。 そう云えば、・・・。 今じゃ、一目で分かりますよ。 男の子? しっかりして下さい。これから生まれるんですよ。 そうだったね。 店の前に止めますから、・・・。 電話を、借りたい。 構いませんが、・・・家の方へなら、連絡しますよ。少しでも早い方が、・・・。 いや、家じゃないんだ。 -Aug/27/1997-
|