[小説 時] [17 実体] |
17 実体
玄関には、幾つかの荷物が並んでいた。姉は、じっと、睨み付けるばかりで、何も言わなかった。父も兄も不在だった。 何故、こんなことになったのだろうか、・・・こんな筈ではなかったのだ、・・・今日は、別の目的で帰って来る心算だった。そして、今此処にはないものが、ある筈だった。 それまで実体のなかった様々な出来事が、無造作に置かれた荷物や姉の様子から、急に重みを持って迫って来た。しかし、それに耐えることができるかどうかと云う思慮の外で、耐えようとすること自体を、身体は拒否しようとしていた。 これまでに経験したことのない程の苛酷な夏の始まりが、そこにあった。 病院へ行って来たよ。 そう、・・・。 お父さんは? ・・・・・。 そんなに怒るなよ。謝っているだろう?・・・昨日は、帰りが遅くて部屋にも戻れなかったんだ。・・・これでも、精一杯急いで帰って来たんだから。 そこに座って。 ・・・それで、どうしたんだって? あなたは、お父さんが帰るまで待って。良いわね? お父さんは? 本家、・・・。難しい相談なんでしょう。 相談?・・・こんな時に? 知らないわよ。・・・もう良いから、何も聞かないで。 お母さんのことなんだね? 後にして頂戴。 何処へ出掛けるの? 病院よ。当り前でしょう! 行っても無駄だよ。暫くは、面会できないらしいから、・・・。 今頃になって、のんびり駆け付けて来るようなあなたに、何が解るって云うの! そう怒らないでよ。・・・ねえ、始めから、順を追って、聞かせてくれないかな。 お父さんに聞いて。 知らなくても構わない程度のことなんだね? お母さんは、・・・大丈夫なんだね? ・・・・・。 どうして応えてくれないんだ。 まだ、分からないのよ。 何が? お母さんは、・・・・・! -Aug/31/1997-
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