[小説 時] [21 煙草] |
21 煙草
ところで、話がどうなったか聞いてるか?えっ? 口外しないように言われているんなら、無理にとは言わんよ。 どう云うことか、良く分かりませんが? そうか、聞いてないか。 ええ。 どの程度のことを知ってるんだ? 殆ど何も、・・・。事故の状況と、母が入院してること、重体だと云うこと、父が本家へ行っていたこと、今警察へ行っていること、・・・それだけです。 そうか。院長の説明があるまで、まだ少し時間があるな。奥で話そう。・・・お前も、少しは知っておいた方が良いだろうからな。・・・只、此処だけの話にしといてくれよ。詳しい話をしてないってことは、或いは、何か考えがあってのことかもしれんからな。 それは構いませんが、どんなことですか? まあ、座れ。・・・煙草は? 持ってます。 昨日の午過ぎ、用事があって、祭の打ち合せでな、警察署長に会ってたんだが、話の途中で電話が入った。署長は電話に向かって、しきりに禿頭を下げてたよ。頭の下げ具合いを見れば、改めて聞かなくても、相手が誰かはすぐに見当が付くんだ。・・・しかし、今思えば残念なことをしたよ。どんな話か、何んとしても聞いておくべきだった。・・・只、その時は、事故が起きたことさえ知らなかったから、何しろ、話を早く済ませることしか頭になくてな。・・・ところが、帰ってみると大騒ぎだ。 事故のことを、連絡したんでしょうね。 それだけじゃないだろうよ。・・・秋には、市議会議員の選挙があるんだ。いよいよ、今回は長男が立つ。そう云えば、お前の一年上だったな? そうですが、もう少し修行した方が良いと思いますね。 ところが親父は、二年後の選挙が最後の心算だ。その後を継ぐためには、実績が必要だと云う訳でね。・・・商売は、せいぜい半年か一年先を見通せれば立派なもんだが、政治家はそれじゃ務まらないらしい。 その話は聞いていました。 そんな時に、例えそれが秘書であっても、何かにつけて事故はまずいんだよ。・・・さあ、お前だったらどうする? さあ、どうしましょう。・・・見当も付きませんね。 まず、警察と新聞社を抑える。これは難しいことじゃない。手元に電話があれば、それだけで済む。署長への電話はそれだよ、多分な。さて、これで二つは片付いた。・・・残った問題は、お前の親父だ。これが、なかなかの頑固者だから、かなり頭を絞ったろうな。その結果が、將を射るためにはまず馬と云うことだ。 それで、本家へ、・・・? そうだ。 どうして、・・・! -Sep/7/1997-
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