[小説 時] [23 予期] |
23 予期
まだ、会えない?此処へ、連絡して、・・・。病院へ、急いで、来て欲しいって、・・・。 そう。・・・分かったよ。 急いで! 医者に、話を聞きたいけど、・・・。 ・・・・・。 どうやら、後にした方が良さそうだね。 二つ目の電話を済ませた時、叔父夫婦の乗った車が病院に着いた。車が止まるまで待ってはいられないと云ったふうにドアが開き、そして、叔母は大きな荷物を抱えながら、逃げ出すように車を降りた。叔父は、ゆっくりと、汗を拭きながら後に続いた。 持ちましょう。 ありがとう。・・・ところで、こんな時に何処へ電話なの? 気が付きましたか? 当り前でしょう。それだけ大きな図体をしていれば、壁の向こうからだって見えるわよ。 親父と兄へ、・・・。 えっ?・・・まさか! いえ、そうじゃありませんよ。 ねえ、あなた、何故そんなことを、・・・! 医者が話をしたいとかで、・・・。 こんな時の医者の話が何か位、あなたには見当が付かないの! 本当か? ええ。 そうか。 そうですね。・・・どう云う話か、凡その見当は付いています。只、どうしても、これ以上のことは、自分の耳で聞きたくないんです。・・・足が、地に届かないんですよ。 誰でも、こんな場合はそれが当然だろう。 どうしたら良んでしょう? そう。聞きたくはないだろうが、黙って聞くことだな。 暫くして、兄が、それに少し遅れて父が着いた。叔母は、遅れて来た二人の挨拶に、返事をすることもなく部屋を出た。恐ろしく陰気な部屋には五人が、そして、その五人には待つことだけが残った。 姉は下を向いた儘、一度も顔を上げなかった。父は、叔父と二言三言、言葉を交わしたが後は続かなかった。兄は、入口近くの椅子に腰を降ろしていた。誰もが叔父の言う「聞きたくはないが、しかし、聞かなければならない」医師の話を予期しているようだった。 少しして、叔母は二人の医師と一緒に戻って来た。 -Sep/7/1997-
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