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25 機能

 ちょっと待って下さい。もう一つ、聞きたいことがあるんですが。
 何んでしょう?
 母が此処へ来た時、確かに生きていたんですね?

 えっ?・・・どうしてそんなことを、・・・。

 手術前、助かると思いましたか?
 できることは全てやろうと思いましたね。それが我々の務めですから、・・・。
 助かる見込みは、なかったんですね?
 手術をしたと云うことは、見込みがあると判断したと云うことです。
 手術後はどうでしたか?
 脳は、他と違って、生命を制御・維持する機能を持った器官です。そこに障害が発生すれば、どんな状況であれ危険であることには違いありません。只、その時点では、心肺に致命的な機能異常がみられませんでしたから、それに期待しよう、そう云う認識でした。
 少なくとも、手術するまでは心臓の機能に異常がなかった、それが急に変化したんですね?・・・その理由は何ですか?
 心肺に全く異常が認められなかったと云うことではありません。その点はくれぐれも誤解のないようにお願いします。・・・脳と心肺には、お互いの機能に依存する度合が非常に大きいので、勿論限度はあるんですが、一時的には、片方の機能が低下し始めると、片方がそれを回復させようとする働きがあります。確かに、この場合も、低下しつつある脳機能を回復させるために、心肺は脳に酸素を供給すべく最大限の働きをしていたことは間違いないんです。只、一方、相互の依存度が大きいと云うことは、脳の機能が回復しなければ、自らの機能を維持できないと云うことでもある訳です。この二律背反を乗り越えることができなかったと云うことです。
 その相互の補完機能と云うものは、どの程度の時間、働くものですか?
 状況に依って差があります。
 いや、聞きたいのは一般論じゃなくて、この場合はどうかと云うことです。
 受傷後一時間と云う場合もありますし、数日と云う場合もあるでしょうね。
 それじゃ、受傷してから手術までに、どれ位の時間が掛かったんでしょうか?
 三時間、でしょうか。それ以上ではないと思います。
 受傷してからの経過時間と云うのは、かなり正確に分かるものですか?
 凡そ、見当は付きますね。
 その三時間と云うのは、何を基に弾き出された数字ですか?
 事故の状況を聞いてましたし、検査の結果からも、ほぼ妥当な線だと判断されました。
 純粋に検査の結果だけから判断すれば、どうですか?
 殆ど変わらないでしょうね。大きく見ても、前後に一時間以上と云うことはないと思いますよ。
 その一時間の差が原因で、こう云う結果になったとは考えられませんか?
 純粋に可能性だけを云えばあり得ることでしょうが、そうではなかったと思いますね。
 こう云う事故の場合の一時間ですよ。適切な初期処置が取られたかどうか、そのことが生死に大きく影響することは常識でしょう?
 一般論としては、その通りです。
 そうでしょうね。

 それじゃ、準備ができ次第連絡しますので、・・・。

-Sep/7/1997-

・・・つづく・・・



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