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[小説 時] [29 眩暈]

29 眩暈

 伯母の三人の息子達が車を連ねて着いたのは夕方近く、殆ど間を置かずに、神主と葬儀社の数人が着いた。

 神主は控えの部屋に案内された。本家分家からの二十人程に母方の親戚を加えて総勢三十数人となった親族が、母の前に用意された席に着くと、父は神主を呼びに立った。暫くして、盛装した神主が現れ、居並ぶ親族に簡単な会釈をした後、祝詞を上げ始めた。

 陽は落ち掛かっていた。部屋には神主の声と、幾つかの啜り泣く音だけがあった。

 急に、頭の中が膨れ始めた。眩暈がした。意識が頭の中心に向かって収縮して行くようだった。それは次第に、小さい球となり、点となり、そして、消えた。静止していた身体が動き出した。それからは記憶がなかった。

 気が付いた時には、右腕に隣の姉の左手が添えられていた。それがなければ、倒れていたに違いない、・・・。膝に置いた手の震えが止まらなかった。訳もない涙が吹き出て来た。不思議だった。何故だろうか、何故こんなことになったのだろうか、これは確かなことなのだろうか、・・・これから、どうなるだろうか、何ができるだろうか、何をすべきなのだろうか、・・・この儘、何時まで泣き続けることができるだろうか、・・・恐らく、あの小さい姉の半分も続かないだろう、と、・・・そう考えていた。

 祝詞が終わると、家族の手で母は柩に納められた。伯母は、開いた儘の母の唇を頻りに閉じさせようとした。しかし、執拗な努力にも拘らず、最後まで母の抵抗は続いた。葬儀社の主人が先を促さなければ、何時までもそれを繰り返したに違いない、・・・伯母は、いかにも諦め切れないかのように腰を上げた。

 もう、どんなことがあっても、その外に出ることはできない、・・・。それは、外から覗き込む人達にとっては窮屈そうな、しかし、動く必要のなくなった人にとっては、持て余す程に広い空間だった。

 そして、主を待っていた祭壇に移され、用意されていた供物や花が添えられた。

 外には通夜の客が待っていた。何人かには見覚えがあった。

-Sep/14/1997-

・・・つづく・・・



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