[小説 時] [31 徳利] |
31 徳利
叔母は、相変わらず虚脱した儘の姉に代わって、台所に立った。温目の燗の徳利が運ばれて来た。叔母さん、片付けは明日にしましょう。後は勝手にやりますから、先に少し休んで戴いて、後で姉と代わって貰えませんか? でも、・・・。 あの様子じゃ、先に休ませるのは無理でしょうから。 でも、昨日からづっとあの調子よ。心配だわ。 今は何を言っても聞かないだろうと思いますよ。 そうね。・・・良いわ。そうしましょう。その代わり、何かあったら、きっと起こしてね。・・・それじゃ、お先に、・・・。そう、食事の仕度ができていますから、食べてくださいね。まだ、先は長いんだから。 お願いします。 ・・・飲むか? 勿論。・・・兄さんは? 止めておいた方が良さそうだ。頭痛がする。 飲めば直りますよ。 どうかな。よけい酷くなりそうな気がするよ。 先に休んだらどうだ?・・・この所、大変だったからな。 いや、わたしだけがそうだった訳じゃありませんから、・・・。 そうでもなかったのが、此処にいるんですよ。だから後は委せて、少し休んで下さい。 嫌みを言った訳じゃないんだ。 ええ、勿論、解ってます。只、僅かでも、借りていたものを返しておきたいと思っただけで、・・・他には何もありませんから。 別に、何も貸した覚えはないよ。 いや、借りがあることは確かなんです。・・・どうですか、一杯だけ。ほんの気持ちです。・・・まさか、これで借りを返したことにしようと云う訳じゃありませんから。 そうだな。 男は、・・・いざとなると、何の役にも立たないと思いませんか?・・・さっきから、づっと考えてましたよ。姉はあの通りなのに、それに引き換え、男共はどうなんでしょうね。・・・姉の半分も泣ける訳じゃなし、かと云って、叔母さんのように耐えてみようとしている訳でもない、・・・何をしてるかと云えば、後のことばかり考えて、・・・今は、何もすることがないじゃありませんか? 「後のこと」じゃない、「先のこと」だなんだよ。それが男の仕事だろう? そうでしょうか? お父さんはどう? それがどうかしたか?・・・少し休む。 -Sep/21/1997-
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