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[小説 時] [32 蚊帳]

32 蚊帳

 何故あんなに苛々するのか、解らない。これは、お父さんが自身が出した結論じゃないか。
 どうすれば良かった?
 少なくとも、明日までは待つべきだったと思いますよ。
 明日まで待てば、何が変わる?
 何も、・・・多分、・・・。それでも、待つべきだと思いますね。
 お父さんは考えたんだと思うよ。・・・第一四半期がどんな状態だったか知ってるだろうけど、予想よりもかなり厳しくてね。しかも、これから先、うまく風が吹いてくれるかどうか、はっきりしない。・・・となれば、利用できるものは利用する、・・・。

 そうでしょうね。
 確かに、後味が良いとは云えないだろう。だが、それも含めて決断したんだよ。
 でも、この家には、結局、何も残らなかった、お母さんも、その代償も、・・・。何かしら得るものがあったのは、加害者と第三者で、被害者だけが蚊帳の外にいる、・・・。こう云う選択肢があるとは思ってもいませんでしたよ。
 何故そうなったのか、時間が経てば解るよ。
 お父さんも叔父さんも、そう言ってました。でも、僕には解りませんね。・・・どうして、あんなに急いだんだろう、急ぐ必要が何処にあったんだろう、・・・。そう思いませんか?
 選挙が近いからな。火は小さい内に消しておくに限る。
 みんなそう思ってるようですが、・・・。確かに、それも理由の一つだとは思いますよ。でも、本当にそれだけかな?・・・バケツの水で済んだかもしれないと云うのに、消防車が来たんですよ。何故、あんなに慌てたんだろう、・・・。お母さんは、その時、まだ自分で息をしてたんですよ。
 政治家は、こう云うことに神経質だ。少しでも危険があると考えれば、自分の手で消そうとするようなことはしないだろうな。

 叔父さんと同じですね。・・・でも、それだけだとは、どうしても思えない。
 お父さんが説明しなかったから、どうかと思うが、市には新しい総合運動場を造る計画があって、土地を捜してた。
 運動場?
 何もなければ、予定地はもう少し北寄りの筈だった。それで、殆ど決まりだったんだが、急に変更になった。何故そうなったかは、解るな?・・・それを本家は拒否しないことも、交換条件が何かと云うことも知った上で、お互いに手を打った。表向きの話はそれだけだったが、実はそれだけじゃない。総合運動場となれば、スタンドに体育館だろう?
 でも、入札が、・・・。

 ああ、そう云うことですか。・・・それにしても、咄嗟のことだったろうに、それだけの計算をして、・・・。
 こう云う場合には、決断を躊躇するような条件じゃどうしようもないんだ。
 それだけの条件があるんなら、此処に直接来れば良かった。
 安全で確実な、消防車と消防士を使ったんだよ。

-Sep/21/1997-

・・・つづく・・・



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