[小説 時] [37 校門] |
37 校門
翌朝、眼を醒ますと、既に片付けは始まっていた。膳や座布団が積み上げられていた。昨日、この前に或いはこの上に座っていた人達は、もういない、・・・誰も、腹に収められるものは全て収めた、そして、此処には、行き所なく淀んでいる酒の匂いだけが残った。会社に電話を入れた。休暇を延長しなければならなかった。型通りの挨拶の後、そのための段取りに半時間程を費やして、やっと三日の休暇が認められた。 片付けが終わったのは午近くだった。兄は借りていた什器を返しに、父は本家へ挨拶に出掛けた。 伯母を送って街に出た。列車に乗せた後で、久し振りに歩いてみる心算だった。 駐車場がなかなか見つからなかった。いよいよ叔父の店に戻ろうとした時、急に学校へ寄ってみることを思い付いた。 校門を入ると、そこからは見えない校庭の方から賑やかな歓声が聞こえて来た。周りを厚い緑が取り囲む、そこは街の中にあって、別世界だった。車を駐めて玄関を入ると、右側に以前の儘の小さな窓が、その左には大きな鏡と、そして、時代がかった大きな振子時計が並んでいた。覗き込むように来意を告げると、すぐに、嘗つて同級だった、今は此処で数学を教えている教師が顔を出した。 久し振り。 あまり変わらないな。・・・ほっとするね。 そうでもないよ。俺達の頃のように、一つの学年に六つも七つものクラスと云うことはないんだ。一クラスの人数も減ったし、それでも空いている教室がある。・・・外は変わらないが、中は変わったよ。 そうだろう。もう、・・・十五年だからな。 計算は間違えないでくれよ。此処まで来ると、一年二年の差は大きいんだから、・・・。それはそうと、昨日は授業があって行けなくてね、申し訳ない。 気にしてないよ。 それにしても、・・・。 驚いたね。まだ、実感がない。 そうだろうな。こんな場合、どう言ったら良いか、見当も付かないんで困るよ。 悪かった。 いや、そう云う意味じゃないんだ。 解ってるさ。 もう、授業だ。 車を駐めて置きたいんだが、構わないか? 良いよ。 少し、ぶらついて来る。 何時までいられる? 二三日かな。 一度、飲みたいな。 今回は、無理だろう。 夏休みには帰って来るんだろうな? 勿論。 その時は、是非、時間を作ってくれよ。 そうしよう。 此処へ来て初めて送り出した卒業生の同窓会が、この夏にあるんだ。久し振りに友達とも飲めるし、良い夏になりそうだよ。 -Oct/4/1997-
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