[小説 時] [45 帳場] |
45 帳場
初めまして。無理を聞いて戴いて、ありがとう。いいえ、退屈していたところでしたから、却って、感謝したい程です。 でも、中年が相手ですから、あまり期待しない方が良いかもしれませんね。 まだ中年には早いだろう。せめて、壮年とは言って欲しいな。 そうよね。先生、まだ若いわよね。 この年で「若い」と言って貰えるのは嬉しいだろう? そのせいで、生徒に舐められることもあるよ。 そんなことないよ。わたしは数学が嫌いだったけど、良い先生だなって思ってたもの。 ありがとう。お世辞だと分かっていても嬉しいよ。でも、もう点数を上げてやることもできんな。 そうか、その手があったんだ。・・・失敗したな。もっと早く気が付いていれば、苦労しなくても済んだんだ。 後の祭だな。 妹に教えておこう。 英米文学を専攻してるんですってね? ええ。 誰が好きですか? 今は只、いろんなものを読んでみたいと思ってるんです。 そうだな。まだ一年なんだから、たくさん読んで、それから決めれば良いさ。この男もね、学生の時は読書家だったんだよ。 今でもね。・・・ブロンテは知ってますか? ええ。イギリスの作家でしょう? そう。幾つか資料があるんです。イギリスのヨークシャにブロンテ協会と云うのがあって、そこの年次会報も何冊か揃ってますから、興味があればお貸ししますよ。大分前のものですが。 本当ですか?・・・すぐにでも、お願いできるんですか? 良いですよ。後で送りましょう。 嬉しい。ありがとうございます。 失礼します。・・・電話が入っておりますので、帳場までお越し戴きたいんですが、・・・。 此処へ回して戴く訳にはいきませんか? ええ。 そうですか。・・・ちょっと、失礼しますよ。 -Oct/11/1997-
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