[小説 時] [47 運転] |
47 運転
随分長い電話だね。申し訳ない。・・・一時間程、席を外して戴けますか? かしこまりました。ご用がありましたら、お呼び下さい。・・・失礼します。 ・・・実は、少し聞きたいことがあるんです。 先生から聞きました。でも、何故なんですか? 事故に逢った人はわたしの知合いなんです。・・・どんな様子だったのか、それを知りたいんですが、どうやら、あなたの他にはいないらしいんですよ。そこで、初めから順を追って聞かせて貰えたら大変有難いんですが、・・・。 でも、・・・。 覚えていることだけで良いんだよ。 ええ。丁度、兄の結婚式があって、それで帰っていました。 お兄さんの結婚式の、前でしたか、後でしたか? 次の日でした。友達と会って、食事をして、その帰りですから、十二時半頃だったと思います。 十二時半ですって! 自分の目で見たんだね? ええ、見ました。でも、・・・約束したんです。誰にも話さないって、・・・。 同窓会じゃ、話してただろう? 見たってことしか話してないし、それだけだもの。 見たのは、あなた一人じゃないんですね? 友達と一緒でした。 約束しようと言い出したのは、あなたですか、その友達ですか? わたしじゃありません。わたしは、警察に連絡した方が良いと思ったし、そう言ったんです。でも、何だか、とても変でした。 どう云うこと? 急に慌てて、・・・。 その友達は、何故あなたに約束させたかったんでしょうね? きっと、運転していた人を知っていたからだと思います。わたしにも見覚えがありましたから、・・・。でも、これは、わたしの想像で、はっきりと聞いた訳じゃありません。 あなたも知っている人? 新聞に載った事故の記事、読んだ? いいえ。翌日には学校に戻ったの。だから、読んでいません。でも、・・・この間の同窓会の次の日に、その友達に会って話しを聞いたら、その人、亡くなったって、・・・。 その亡くなった人はね、・・・この人の、お母さんなんだよ。 えっ!・・・まさか、・・・。 話してくれますか? でも、・・・。 話して上げなさい。 約束を破ることになるのよ、・・・先生。 何かあったら、先生も一緒に責任を取るよ。 そうね。・・・もう、犯人も捕まっているんだし、新聞にだって載ったんでしょう?・・・話しても良いわよね? そうだね。でも、今度こう云うことがあったら、必ず通報するんだよ。 そうします。 -Oct/18/1997-
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