[小説 時] [58 緑青] |
58 緑青
白の方が良かったかな?やっぱり赤でしょう。 そうだね。・・・さあ、・・・。乾杯!・・・長い間、ご苦労さまでした。 乾杯。 乾杯。・・・たっぷり飲むんだよ。 酔わないかしら。 大丈夫さ。この娘は、なかなかの酒豪だからね。・・・何しろ、潮の匂いよりも、酒の匂いがする位だから。 別れるって、・・・やっぱり、寂しいわね。 何時も、走れ走れって、そればかりだったよ。でも、今考えれば、きっと、精一杯走ってたんだよね。 確かに、そうだったな。・・・今考えれば、確かに、精一杯走ってたよな。 そんなふうには、考えたこともなかった。今頃になってそんなことを言い出しても、遅いんでしょうけど、何時も後悔しますよ。もっと早く、できることがあったんじゃないか、って・・・。それが何時も、間に合わない頃になってからですけど、・・・。我儘なんですよね。・・・そうですね。・・・別れるって、やっぱり、淋しいことですよね。 もう一度、会いに来れるさ。 その時は、・・・。 さあ、戻ろう。折角の料理が冷めてしまう。
扉の緑青が浮いたプレートを外して、船を降りた。 -Nov/2/1997-
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