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[小説 時] [62 憶測]

62 憶測

 やっと、雪が降ったわ。
 そうだね。思っていたよりも早かった。
 約束は約束よ。

 これまで何人もの人から、事故についての話を聞かせて貰ったよ。大いに興味をそそるような話もあったけど、概ね、誰の話も判で押したように同じだった。不思議なことだ。・・・目撃者がいない事故なら、それだけ、さまざまな憶測の類があって然るべきなのに、揃いも揃って同じだと云うのは、不思議だと云うよりも奇妙なことだ。
 それが事実だからでしょう?
 違う!・・・違うんだよ。そんな偶然はあり得ないんだ。・・・真相は、誰でもが感じている通り、うんざりする程生臭い。それでも、それを口にしないのは、そこに大きな力を感じるからだ。
 何を言っているのか、全然分からない。
 すぐに解るさ。嘘は、何時までも隠し果せるものじゃない。
 それで?
 何の拘わりもない人たちなら、事実がどんなもであっても構わないだろうが、当事者はそれで済ます訳にはいかないんだよ。
 良くは分からないけど、でも、初めて分かったわ。お喋りって、それを聞いている人が聞きたいと思っていることには、何も応えていないんだってこと、・・・。

 わたしが聞きたいのは、・・・わたしはどうすれば良いか、やっぱり、一年、待たなくてはだめなのか、それだけなのよ。
 そうならないことを祈ってるよ。
 他人事のような言い方ね。
 残念なことに、事実を知っているのは僅かしかいない。あれから五ケ月が経った。だが、未だに、誰も口を開こうとはしない。それでも、この事件の顛末は、本人が、自らの口で明らかにすべきだと考えてる。そのために、一年だけ待つことにしたんだよ。・・・尤も、過ちを悟って事実を話してくれさえすれば、こんなにまでして待つ必要もないんだがね。

 そう。・・・無理なのね。
 もうすぐだよ。
 わたしは、あなた程楽天家じゃないわ。

-Nov/8/1997-

・・・つづく・・・



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