[小説 時] [63 控訴] |
63 控訴
すぐにでもあの時の約束を守って欲しい。できればそうしたいよ。 何故できないの?・・・あなたが決断すれば、それで済むことでしょう? 今、どんな球が返ってくるかを待ってるんだよ。それまで、此処を離れる訳にはいかないんだ。・・・勿論、何時までも待つ訳じゃない。一年、いや、あと半年だ。 分かったわ。でも、・・・一年って、「もうすぐ」じゃないわよ。 もう、半分近くは過ぎた。 一年経って、もし、・・・何もなかったら、どうする心算なの? 償いを、・・・して貰おうと思う。 償い? そんなことを知る必要はない。 でも、判決は下りたし、控訴もせずに服役してるわ。それに、・・・運動場用地のことも専らの噂よ。・・・それ以上、何を望めるって云うの? そうだね。・・・でも、それじゃ不満なんだよ。・・・控訴しなかったのは、何よりも、裁判が長引くことを恐れていたからだ。裁判所の判断がもっと厳しいものだったとしても、控訴するようなことはなかっただろうさ。只ひたすら早く終わらせることだけを考えていたからだ。・・・本人にすれば、不満も不安もあっただろうね。だが、それでもしなかった。・・・彼に野心とか柵がなければ、或いは、そうしたかもしれない。でも、できなかった。彼にそれを期待するのは、酷なことだよ。 何が言いたいの? 控えていた選挙の方が、遥かに重要なことだった。だから、それに及ぼす影響を最小限に抑えたかった。その方針があるだけだった。そのために支払わなければならないものが、どんなものであつても、そんなことは些細なことだ。 でも、自分の選挙ならとにかく、他人のために一生を棒に振ることになるのよ。 そうだよ。 どうして? 長い間、魑魅魍魎の住む世界にいた人間の発想を理解するのは、なかなか難しい。・・・彼は、充分過ぎる程の罰を受けた。・・・むしろ、それが不満なんだよ。彼が受けた罰は、彼が受けるべきものじゃなかったからだ。 えっ? -Nov/8/1997-
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