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[小説 時] [73 事象]

73 事象

 元気?
 いや、最悪だね。
 どうして?
 もう少し、待って欲しい。
 何よ、それ、・・・。久し振りなのよ。もう少し気の利いた言い方があるでしょう?
 生憎と気が利かなくてね。・・・がっかりしたろう?
 本当よね。
 今日はあまり時間がないんだ。
 何かと云うと何時もその台詞ね。
 明日の朝までには、どうしても戻りたいんだ。
 女の人?
 残念なことに、そうじゃない。ぞっとしないが、仕事なんだよ。
 どんなことも隠さないで言ってね。もう大概のことには驚かないから、・・・。だって、もう、箸が転がっても全然可笑しいとは思わなくなったものね。これは物理の法則に則った事象だ、なんて考えたりして、・・・。淋しいけど、そう云う年齢なのよ。
 「じしょう」?
 試してるの?
 いや、普通の会話で使うような言葉じゃないからね。・・・それよりも、帰る前にお父さんを説得する仕事があるんだ。それが、なかなかの難問でね。
 お父さんって、・・・今日は帰りが遅くなるわよ。
 まさか、・・・。だって、昨日会う約束をしたばかりなんだよ。
 そうなの?・・・知らなかった。
 帰る時間を言ってなかった?
 聞いてないわ。でも、待っていられるような時間じゃないことは確かね。
 そう。・・・何故だろうな。
 何の話なの?
 あまり気の進まない話だよ。
 まだ時間がかかりそうだと云う話?
 そうだね。
 どれ位?
 それが判っていれば、こんなに気が滅入ることもないだろうね。
 そうなの。・・・がっかりだわ。
 辛いよ。
 わたしも、・・・。
 そうだろうね。

-Dec/6/1997-

・・・つづく・・・



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