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[小説 時] [75 忌避]

75 忌避

 やっぱり、まだだったわね。
 待たせて貰うよ。
 それは構わないけど、無駄だと思うわ。
 便箋と封筒を貸して欲しいんだ。
 どうするの?
 待てるまでは待つけど、それでも会えなかったら渡して欲しいんだよ。
 良いわよ。何か飲む?
 ・・・・・。
 兄の部屋が空いてるわ。・・・最近会ってないんだって?・・・なかなか連絡が取れないって言ってたわ。時間があったら連絡してあげてね。
 何かあるのか?
 別に、そう云う訳じゃないんだけど、・・・。何か会いたくない理由があるの?
 そうだね。今は会いたくない。
 長い付き合いなのに、・・・。コーヒーは?
 濃くして。

 結局、会えなかった。会えなかったことが不安だった。

 約束を忘れたとは思えない、昨日の今日だ。・・・自分なら、娘にとっての一年をどのように認識していたのか、その貴重な時間が何に費やされたのか、それはこれからの礎となり得るものなのか、そして、これからどうする心算なのか、・・・そうした一年と云う空白を埋めるための説明を聞きたいと思うに違いない、・・・。その機会を、何故、忌避したのだろう、・・・。何故だろうか、・・・。

 この間様々な風聞が耳に届いて来た、その話を総合すれば待つことも止む得なかった、そう考えただろうか、・・・。いや、そんなことはない、・・・。状況を考えれば話の内容は凡そ察しがつく、聞くまでもない話に付き合うのは時間の無駄だと、考えたのかもしれない、・・・。会っていれば、事実、その通りになっただろう、・・・。しかし、それだけだとも思えない、・・・。

 そもそも、経緯を知りたくなかったのかもしれない、会えばその話を避けては通れない、事実が耳に入ればそれを無視することもできない、・・・。そう、恐れていた、・・・会うことを、会って話を聞かなければならないことを、聞けばそれを認めなければならないことを、認めればそれで全てが自分の手を離れてしまうと云うことを、・・・。

 知っている!・・・その上で、何かしら考えるところがあった、だから、今日、会う訳にはいかなかった!

-Dec/6/1997-

・・・つづく・・・



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