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[小説 時] [76 軽率]

76 軽率

 部屋に着いたのは明け方近く、既にその日の朝刊が届いていた。

 窓を空け放った。人の匂いの失せていた部屋に、騒々しい生気が戻って来る、・・・。着替えもせずに新聞の束を繰ると、幾つかの封書が紛れていた。それを手にしながら、書き残して来た手紙を後悔していた。彼等が、どんな書類も残さなかった意味を理解することができるような気がした。口から出た言葉は何時までも残ることはない、しかし、書かれた文字は必要な時に何度でも読み返すことができる、・・・。それなのに自分は何故、目途もない約束をしてしまったのだろうか、・・・。

 こんな時間に何?
 昨日の手紙、もう渡した?
 確かに渡しました。あなたが帰ってすぐだったわ。
 そうか。そんなことだろうと思っていた。
 何?・・・都合が悪いの?
 軽率だったかもしれないと思ってね。
 何が書いてあったの?
 読まなかったのか?
 だって「親展」って書いてあったもの。
 そうだが、封をしなかったんだから、・・・。
 まだ読んでないと思うわ。返して貰う?
 いや、その儘で良い。もう、読んだ筈だから、・・・。只、間に合えば、誤解のないように付け加えたいことがあってね。・・・「秋」と云うのは、・・・。
 本当なの?・・・それじゃ、もうすぐじゃない?
 そのことを含めて、もう一度説明する機会が欲しいと、伝えて欲しい。それまでに片が付くと云う見通しがあって、書いた訳じゃなかった。軽率だったと思っている。
 ねえ、・・・。
 できるだけ急ぐよ。本当に申し訳ないと思っている。・・・我儘だよね。でも、もう少しだけ我儘を許して欲しい。
 がっかりね。でも、分かった。何とか話してみるわ。だから、このことはわたしに委せて、できるだけ早く良い返事を聞かせて頂戴。・・・あなたは一人じゃないのよ。
 ありがとう。・・・愛してるよ。
 わたしも、・・・。
 何か、弾いてくれないかな。
 起きたばかりなのよ。
 そうだね。

-Dec/18/1997-

・・・つづく・・・



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