[小説 時] [83 石畳] |
83 石畳
もう少し、暖かければ、ね。そうね。もう少し、・・・温かだったら、・・・。 天気は良いし、風も無い。この季節にこれ以上を望むのは無理だろうな。 そうよね、きっと。 久し振りだね。 久し振りね。・・・でも、どうして、・・・。 何?・・・言いたいことがあれば、どんなことでも聞くよ。 ううん。良いの。何でもない。 そう。・・・少し歩くよ。 少しだけにしてね。・・・ねえ、これだけは覚えておいて頂戴。女は、あなたが期待している程には歩けないものなのよ。そうでなくても、もう、随分歩いたんだから、・・・。 これまでのことは謝るよ。そのために、今日は、此処に来た。待って、ようやく熟れた実を採りにだ。・・・何の土産もなしに帰す心算はないよ。 美味しいのかしら? そうだね。一つは、間違いなく気に入って貰えるよ。 嬉しい、・・・。 待たせたね。 良いのよ。その話は後にしましょう。あなたがその気なら、わたしは少しも急がない。 懐かしい、・・・。 そうね。 変わらないよ。 そうかしら。 以前の儘だ。・・・不思議だね。・・・忘れてしまってもおかしくない程昔のこと、煉瓦造りの倉庫とか、擦り減った石畳だとか、雨の日の約束とか、・・・誰も未だに残っていることを信じないだろうものを、自分の目で確認できた時程安心することはない。 何が言いたいのか、全然解らない。・・・どうするの? その質問に対する答えは、できれば後にしたいね。 まっすぐで良いの? えっ?・・・ああ、そう云うことね。取り敢えず、左へ曲がろう。 -Jan/11/1998-
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