[小説 時] [85 悟空] |
85 悟空
ねえ、腕を組んでも良い?良いよ。 向こうには何があるの? 桟橋。・・・船、・・・貨物船だろうね。 見たい。 大きいだけだよ。 大きい船、見たいな。 大きいだけで、醜悪だよ。 だめなの? だめ、・・・。 たまには、わたしの我儘を聞いてあげようって気にはならない? 今日は我慢しよう。・・・客船が入ったら案内するよ。 残念ね。 思い出すことはない? 何を? 此処だよ。・・・前に一度来たことがある。 この街へは、づっと前に、一度だけ来たことがあるのよね。・・・でも、良く覚えてないの。づっと思い出そうとはしてるんだけど、・・・何しろ、過ぎたことは、何時までも頭に詰め込んでおかない主義だから、・・・。 賢明なことだ。 潮の匂いがする。・・・以前の儘? いや、随分変わったね。 そうでしょうね。・・・無理もないわ。・・・あの日も、晴れてたわよね? さあ、どうだったかな。 あの船、見たことがある。・・・そうそう、思い出したわ。・・・あの日も晴れていて、とても良い天気で、そうだわ、暑い位だった。大勢で、大騒ぎして・・・。船があって、・・・あの時の船よね?・・・そうよ、あんなに大きな船だったら、何処へでも行けるんだろうな、って・・・。あの時の儘なのね! もう少しすれば、何処へでも行けるようになるよ。 そうね。・・・船じゃなくて、孫悟空のように、・・・。ああ、待って、・・・。孫悟空じゃだめよね。・・・でも、せいぜい、あなたの掌の中がお似合いかな。 成程。その話、気に入ったよ。 良かったわ。それなら、まず、この岩を、どうにかして頂戴。 そうしよう。 手遅れにならないように、お願いね。今でも、充分息苦しいんだから。 分かった。 -Jan/11/1998-
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