[小説 時] [87 卓見] |
87 卓見
何度も連絡しようとしたの。・・・でも、怖かったわ、会うのが。咬み付かれると思った? あなたの採ってくれる実が、苦かったらと思うと、不安で思い切れなかった。 そう、確かに、今でもその心配はある。・・・只、一つはだけ保証するよ。 ありがとう。口に合うものが何もなかったら、どうしようかと思ってた。 解っただろう?・・・何時でも、早目の決断が良い結果を生むとは限らない。時には、じっと待つことも必要だってこと。 でも、遅れて後悔することもあるでしょう? そんなことはないさ。それは、きっと、・・・勇ましいだけが取柄だと云う連中の戯言か、自分では何も決断できい連中の寝言だよ。 わたしも、その一人よ。 残念だね。 そうかしら?・・・わたし達には、それで充分なのよ。だって、人生を無理やり難しくするなんて、馬鹿気てるとは思わない? 卓見だね。見直したよ。 嬉しいわ。あなたに褒めて貰えるなんて、・・・。 只、・・・単純であって欲しいと云う願望を、だから人生は単純だとしてしまうのは、無茶な飛躍だよ。 そうよね。 無理に、難しくしてしまう必要はないと云うのは、確かだろうけれどね。 そうじゃないの。・・・何時だって、褒められた儘で済むことはない、ってこと。 悪かった。止めよう。 まだ? あそこだよ。 ホテル? そう。 まだ、こんなに陽が高いのに? もう少し歩こうか? これ以上歩くようなら泣き出すわよ。 我儘だね。 あなた程じゃないわ。 -Jan/18/1998-
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