[小説 時] [99 摂理] |
99 摂理
多くのことは、多くの場合、時間が、当事者の意志に拘りなく、すっかりと清算してくれる。時には、そうした摂理に感謝したいと思うこともある。・・・だが、何時でも、それが最善だとは限らない。それだけが解決の方法だとも限らない。・・・痛みは、確かに、時間と共に薄れて行ってしまう。どんな努力を以ってしても、それに抗うことはできないのかもしれない。だからと云って、痛みの原因がなくなってしまう訳じゃないんだ。あなた一人なら、幾らでも、好きなだけ時間をかけて良いのよ。でも、違うでしょう? ・・・これは、自分自身で解決すべきことだ。他人に任せてしまう訳にはいかないんだよ。それが例え、人の手の及ばざるものであったとしても、ね。 酔ったのかしら? だから、自分の歩いている道は、朱い丸に通じているのだろうか。そして、自分は今、その道の何処まで進んでいるのだろうか、・・・。印を付けた地図が、手放せなかった。 折角の夜に、頭の痛くなるような話ね。 電話で話している間、づっと考えていた。・・・もう一度、線を、引き直してみよう、少しでも可能性があるなら、どんなことでも、・・・例え、少し遠回りになったとしても、引き返さなければならなくても、・・・もう一度、最初から遣り直さなければならなくても、・・・やってみよう、・・・そう思った。そうすれば、或いは、何かが変わるかもしれない。 嬉しいわ。 取ってからでなければ、何も始まらないと思っていた閊えも、本当にそうだろうか、本当に、取ってからでなければ何も始まらないのだろうか、そう考えたよ。・・・痛みが薄らいだ今こそ、良い機会なのかもしれない、・・・二つのことを、一度に片付けてしまおうとはせずに、まず、肩から荷物を一つ降ろそう、そして、残りの一つを二人で持ってみよう、・・・咽喉の閊えを取るには、それからでも遅くはないかもしれない、・・・。 わたしの荷物を先にしてね。 残った荷物は、かなり重い。しかも、途中で棄ててしまうことができる荷物じゃない。・・・それでも、一緒に支えてくれる心算があるのなら、むしろ、それが早道かもしれない。 -Feb/22/1998-
|