[小説 時] [101 傷跡] |
101 傷跡
一人が感じれば済む痛みを、二人が感じる必要はない。・・・何よりも、傷跡を見てから判断する方が賢明だし、是非そうして欲しい。今までのことばかりではなくて、これからの、少なくとも、死ぬまでは続く将来のことも含めて、判断して欲しいんだよ。その必要はないわ。 それ程生易しいことじゃない。 相変わらずね。 これは、一人で解決すべき問題だ。・・・何としても片付ける。我儘だと言うことは承知してる。それでも、・・・待って欲しい。 いいえ。 あの事故で失ったものはあまりにも多い。・・・これ以上どんなものも、失うことには耐えられないし、耐える心算もない。 そうしている内に、また一人失うことになるのよ。 そんなことはさせない。 あなたは間違ってる。 今は、両肩に荷があって、辛うじて立っている。その片方の荷を降ろしてしまえば、残った荷の重みで、・・・二人共倒れてしまうだろう。そうなれば、後には何も残らない。・・・これはそもそも、あの男が担うべきものだ。だから、彼が相応の責任を果たそうとしない限り、どんなことも、先へは進めない。・・・どうしてもそれを避けては通れない。そんなことを許す心算もない。 無理でしょうね。 そうは思わないよ。 本当に我儘ね。 -Feb/28/1998-
|