[小説 時] [109 安穏] |
109 安穏
あまり待たせるなよ。気にはしてたんだが、出張だったんでね。 何時になったら連絡が取れるか心配で、手紙にしたよ。もう、着く頃だろうから、それを読んで貰った方が良いな。 此処に何通か届いてるから、その中にあるのかもしれない。何しろ今帰ったばかりで、まだ背広も脱いでないんだ。早速見てみるよ。 来年の夏の選挙に出ることになった。 何故そんなに急ぐんだ? 親父が引退して、その代わりさ。今度のOB会は、さしずめ支援集会と云うところだな。案内状は別に送るが、それを先に知らせたくてね。 親父も出るのか? 一応はOB会なんだから、まさか顔を出す訳にはいかないだろう。只、お膳立てには一口噛ませて欲しいと云う話があったことは確かだ。 成程。 始めは全部を取り仕切る心算でいたらしいんだが、結局あまり露骨でもどうかと云うことなったよ。 そんなに入れ込む必要があるのか? どうやら、今度の後援会長には御大もご不満らしい。野心だけで、なかなか喰えない男だと云うのが専らの噂だからね。お前の親父の後は、なかなか埋められないらしいよ。本人は経験も浅いし、これと云った実績がある訳でもない、しかも、今度は一地方の選挙じゃない。頼りの親父も、今の様子では一緒の車に乗って駆け回れるかどうか、・・・。そうなれば、内助の功にも縋りたいところなんだろうが、生憎一人者だ。全く巡り合わせの悪い男だね。その点では大いに同情するよ。それやこれやで、なかなか安穏としていられる状況じゃないんだろうな。 そうか。 そうなると、自薦他薦組がこの時とばかりに押し寄せて来るらしいんだよ。その中に、彼女の親父さんもいたと云う訳さ。 えっ? -Mar/22/1998-
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