[小説 時] [110 取引] |
110 取引
どう云うこと? 何のために、だ?彼女は、云わば、願ってもない質草と云う訳だ。 まさか、・・・。 辺りを見回してみても、まず彼女程の女性はいないね。 それだけじゃないんだろう? それだけで充分さ。 鼠みたいに嗅ぎ回っている男に、一泡吹かせたいと考えているんじゃないのか? そう云う噂もあることは確かだが、そんなことは幾らでもないだろう。 あの人は、子供の頃から良く知ってるんだ。そんな取引に乗るような人じゃないよ。相手に下心があれば尚更のことだ。 下心がなくても、彼女はなかなか魅力的だよ。それに、確かめた訳じゃないんだが、彼女の家の方にも事情があるらしい。 事情? これは単なる噂だろうと思うが、・・・。 どう云う噂だ? 直接聞いてみるんだな。その方が、いかがわしい話を聞くよりもづっと利口だと思うね。 はっきりと言ってくれ、頼むよ。 銀行のリストに載ったと云う噂がある。 まさか、・・・。 噂があると云うことだけは事実だよ。 知らなかった、・・・。それを知った上で、尚、彼女が欲しいと云うことなのか? そう云う情報は見逃さないだろうな。只、あくまでも想像なんだが、最初から彼女の話があった訳じゃないと思うね。お互いの利害が一致したと云うことなんだろう。それで、取り引きの体裁を整えた。そう云う筋書きだろうな。当然、お前の想像していることも、あっただろうけどね。 -Mar/22/1998-
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