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111 知識
今ならまだ間に合う。諦めたらどうだ?いや。 彼女の気持ちを考えたことがあるか?・・・少しは察してやれよ。 近い内に、もう一度話をすることになっている。 お前の気持ちが変わらなければ、話をしても無駄だろうな。 それ以外に、方法がないんだ。 そうか、分かった。・・・案内状を送るよ。それが最後だと思ってくれ。・・・もう、こんな話をするのも聞くのも、うんざりだね。・・・こう云う世界のことを全く知らなかった訳じゃないが、それでも、もう少しは増しだろうと思ってたよ。子供達の世界にだってそれなりの規律がある。況や政に携わっている連中だよ。・・・こんなことで良い筈がない。 悪かったね。・・・只、それが実態なんだよ。だから、・・・。 解ったようなことを言うな。・・・少なくとも、今まで子供達に教えて来た公理公式は、単に、金を勘定するためものじゃないんだ。正しいこととはどう云うことか、それを知るためにはどう云う知識が必要で、どう云う手続きが必要か、・・・それが数学の、教育の基本じゃないか?・・・それがどうだ?・・・あの連中を見ていると自分が情けなくなるよ。今まで自分は何をして来たんだろうかって、・・・。自分のして来たことが何の役にも立っていないとしたら、単なる穀潰しだものね。 そんなことはないよ。・・・まあ、そうは言っても、許しては貰えないだろうな。・・・正月には必ず帰る。その時に、これまでの借りは返す心算だよ。どう云う形であれ、それがこれまでの結論になる筈だ。 もう一度言うが、これが最後だよ。・・・こんなことには、これ以上拘りたくない。 感謝してる。・・・そうだね。これ以上は、一人でやってみるよ。・・・ありがとう。 もう遅いんだろうが、お前は落としてしまったものに気を取られ過ぎている。・・・それと同じように、まだ手の中に残っているものを守ることにも、もう少し気を使うべきだよ。屈んだ拍子に、・・・後悔しないためにも、ね。 そんなことはないさ。 まだ、幾らか時間はあるんだ。 いや、・・・もう幾らも残っていない。 どうかしてる。・・・何時ものお前なら、そんなに自分を追い詰めたりはしないよ。 -Mar/29/1998-
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