[小説 時] [122 休息] |
122 休息
残念だよ。・・・何か、・・・できることがあったら言って欲しい。もう、何もないわ。・・・できれば、無茶をしないで、・・・。 此処まで来たら、元へ戻って遣り直すことはできないんだよ。 雪がすごいのよ。一日中降り続けてる。・・・此処は、とても寒いの。寒くて、足が痺れて、これ以上立っていられない。・・・もう、休みたい。 ・・・そう、・・・。 さあ、電話を切って頂戴。わたしにできることは、もうないのよ。・・・切って、・・・お願いだから、・・・! そうするよ。・・・済まなかったね。 そうね。・・・結局、何も済まなかった、・・・。 謝りたい。どうしても、許して欲しい。 もう無理よ。 ・・・愛してる。 今更何?・・・どうして、今頃になって、・・・。どうして、もっと早く、言ってくれなかったの?・・・たった一言でしょう? ・・・そうだね。 手が震えた。受話器を降ろす音が、静まり返った部屋に満ちた。その音は、恐ろしく長い間、そこに留まった儘なかなか消えようとはしなかった。・・・何時も不安だった。何時も同じところに戻って来てしまうと云う不安だった。 暖房を止めると、部屋はすぐに冷え始めた。明りを消して部屋を出た。背中で扉の閉まる音がした。暫くの間に何度その音を聞いたろう、・・・。寒さのせいばかりではない、背筋の凍るような音だったことがあった。・・・それが何に由来するものなのかは解っていた。だから、何時も逃げるように会社を出た。 外は、もう、深い休息の準備の全てが、終わる頃だった。 -Apr/26/1998-
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