[小説 時] [126 無限] |
126 無限
外に出ると、昨日からの雪ですっかり埋まっていた道路も、融雪管の敷設されている幹道では、既に路面が見える程になっていた。それでも路地に入れば、屋根から降ろされた雪が軒に届く程だった。長い雪道を歩き始める時には、何時も考ることがあった。自分の前にある道は、自分が立っている場所からあらゆる方向に向かって拡がっているのだと、・・・しかし、どんなに慎重であっても、選択できる道は、歩き続けている内に少しづつ指の間から零れ落ちてしまう、そして、掌に残るものが少なくなって、目の前に伸びている道が狭く感じられた時には、すぐに立ち止まろう、・・・雪に埋まった道を無闇に歩き回ることは危険なことだから、・・・貴重な時間を、ほんの少しだけ、犠牲にすることができる勇気さえあれば、又、そこから新しい無限の道が拡がるのだから、・・・と。 しかし、そうした暗示も殆ど役に立たないことがあった。立ち止まれば、自分自身が埋まってしまうだろう、そうなれば、その後には選択の余地すらも残らない、・・・。 おめでとうございます。 おめでとう。・・・遅かったな。 ええ。叔父さんに挨拶を済ませて来ました。 そうか。 お風呂が沸いてるわ。・・・入る前にお母さんに挨拶してね。 母は笑っていた。・・・やっと帰って来たよ、どうやら、あまり歓迎されていないようだけどね、・・・約束が守れなかったことを、もっと早く謝りたかった、でも、後三日、それで終わるよ、どんな結果が出ようと、それで終わりだ、・・・それまで、もう少しだ、待っていて欲しい、・・・。 -May/31/1998-
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