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[小説 時] [129 手札]

129 手札

 誰も知らない筈じゃないのか?
 そうですね。・・・何故だろうな。極秘扱いで、銀行内部でも知ってる人間は限られていると云うことだったし、意識して洩らすようなことはないと思うんですがね。
 誰だったか思い出せませんが、知りたいと思えば、どんなことでも知ることができるって言ってましたよ。どうしても知りたいと思った人間がいたんでしょうね。
 何のためにだ?
 そんなことは、お父さんが一番良く知ってる筈だよ。何しろ、長い付き合いなんだから。・・・でも、会えたら、念のために聞いてみることにしましょう。
 無理だろうな。
 どうして?
 何か隠し弾を持ってるんじゃないかと、相当警戒してる。
 何もなければ、その必要はない筈なんですがね。そう思いませんか?
 仮に会えたとしても、話ができるとは限らないし、話ができたとしても、期待した答が返って来ると云う保証はない。そもそも、そこまでして聞くような話は、もう何もないだろう。結局、時間も機会も無駄にするだけのことだ。
 それは違いますね。確かに、いろいろな人から、いろいろな話を聞きましたよ。でも、それだけじゃない、・・・お父さんも兄さんもそう思っている筈です。何故でしょうね?・・・そうですよ。勝負は決まったが、まだ相手の手札を見ていないからですよ。
 済んだことだ。
 そう考えることで、無理に自分を納得させようとしているだけですよ。そうじゃありませんか?・・・勝ち負けのことを云ってる訳じゃないんです。それは済んだことだから、今更どうすることもできませんよね。それは解ります。そうじゃなくて、どんな手だったのか、それが見たいと言っているだけです。・・・それが公平な勝負と云うものでしょう?

-May/31/1998-

・・・つづく・・・



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