[小説 時] [131 酒蔵] |
131 酒蔵
二日ばかり続いた春のような陽気も、予報ではその日が最後だと云うことだった。しかし、午を過ぎても穏やかな陽差しが降り注いでいた。雪の溶ける音だけが賑やかだった。出掛けて来るよ。 何処へ? 新年会でね。久し振りに顔を出して来る。 あまり飲み過ぎないでよ。そうでなくても、飲み始めると見境がつかなくなるんだから。 気を付けるよ。 食事は良いのね? かなり遅くなると思うから、先に休んで、・・・。 まだ正月の夢から醒めやらない街は、ひっそりとしていた。時折り水飛沫を上げながら車が通り過ぎた。それ以外に動くものはなかった。 ゆっくりと歩いた。・・・酒蔵から洩れて来る微かな酒の匂い、軒下の融け忘れたように積った儘の雪、その下を流れる水の、助けを求めるような微かな音、・・・。 一つの足跡が続いていた。 いらっしゃいませ。 少し早過ぎたようですね。 お待ちしておりました。・・・明けましておめでとうございます。本年も宜しくお願い申し上げます。 おめでとうございます。こちらこそ宜しくお願い致します。 どうぞ、・・・。 -Aug/15/1998-
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