[小説 時] [143 意志] |
143 意志
場所を替えるらしい。どうして急に?・・・まずいじゃないか。・・・どうする? 運がこっちを向いていないと云うことなんだろうな。聞いておきたいんだが、・・・お前の気持ちは変わらないんだろうね? その心算だよ。少なくとも、今は、・・・ね。 はっきりしない言い方だな。 かなり酔ってる。・・・今は、どんなことにも、自信がない。 運や自信だけが結果を保証する訳でもないだろうさ。 じゃ何だ? 意志、・・・お前の意志、・・・。それだけだよ。外にはない。そうじゃないか? 意志を支えているのは、自信だよ。 この期に及んで、言葉だけの議論をしたいとは思わないね。そんなことは後でもできることだ。・・・さて、休んでいるのは構わないが、最後までいてくれよ。 分かった。 それから、俺は暫く顔を出さない、今の話も聞かなかった。・・・それだけは、どんなことがあっても覚えておいてくれ。後はお前次第だ。良いね? 喧噪はこの部屋にまで届いて来た。 炬燵に足を入れて横になると、身体は急に沈み込んでいくようだった。這い登ることもできないような深みに、落ちていくようだった。・・・家へ、自分の部屋へ、戻りたかった。待っているものを、これまで待ち続けていたものを、忘れてしまうことはできないだろうか、・・・それができれば、今すぐにでも起き上がることができる、そうすれば、蒲団の中に潜り込むことも、幾らかましな酒を飲むこともできる、・・・。しかし、無理なことだ、今は、待とう、・・・待つことには馴れていたし、待っているものは待ってさえいれば間違いなくやって来る、・・・。 -Dec/20/1998-
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