[小説 時] [144 主賓] |
144 主賓
何処へ行ってたんだ?・・・帰ったのかと思ったよ。頭痛がしてね。少し休ませて貰った。 もうそろそろ腰を上げるぞ。温泉にでも浸かって、少し酒を抜くことにするよ。どうだ、一緒に。 いや、遠慮するよ。しかし、まずくはないか? あれを見ろよ。あれ以上は無理だ。 それは確かにそうだが、今日の主賓だろう、途中で抜けたら具合いが悪いと思うがね。 それもそうだが、・・・。 会長があれだけ入れ込んでるんだ、最後に挨拶位はしておいた方が良いよ。 しかし、あれじゃ挨拶どころじゃないだろう。 少し休めば、後はどうにでもなるさ。仮に挨拶ができなくても、最後までいたと云うことが大事だよ。途中で抜けたら、何を言われるか分からんからな。 俺の方が最後まで持ちそうもないよ。 お前が挨拶する訳じゃないんだ。 しかしな、・・・。 手を貸してくれ。俺も手伝うよ。・・・こんなこで揚げ足を取られたら、後悔することになる。・・・まだ先は長いんだ。 それもそうだな。 委せておけよ。お前達は一足先に出て、段取りをしていれば良いじゃないか。御大は此処が済んだら車に載せてやる。 だが、結局、挨拶することはできなかった。 彼ばかりではない、誰もが正月の謂れのない空騒ぎにうんざりしていた。 ようやく、酒にも話にも疲れを感じ始める時がやって来る、それまで部屋全体を支配していた喧噪も徐ろに鎮まり出して、暫くすると、何時もの通りの校歌と、殆ど忘れ掛けていた応援歌の斉唱が始まる、・・・少しばかり前に間違いなく此処にあった勢いを、どうにかして再現してみたいと云う意志は、上滑りして虚ろだった。既に、半分以上が空席だった。 -Dec/20/1998-
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