[小説 時] [151 麦茶] |
151 麦茶
扉の外では歩くことも覚束なかった男は、席に着くと同時に運ばれて来た酒を、一気に飲み干してしまった。そして、男は席を立ち、手を貸そうとする女を振り切って、カウンタや椅子と格闘しながら、奥に消えた。大丈夫かな。 あの様子なら大丈夫ですよ。 何時もあんな調子なんですか? そうよ。あの男、此処へ来るのはね、お酒を飲ためじゃなくて、酔いを醒ますためなの。だから、何時だってあんな調子、・・・。 あんな飲み方じゃ、それどころじゃないだろうね。 大丈夫。さっきのはお酒じゃなくて、麦茶なんだもの。 これも麦茶? これは、れっきとしたお酒。・・・あの男の好きなピンチ。 ピンチ?・・・ディンプルのことですか? ええ。でも、この男がそう言うものですから、・・・。 随分長い付き合いなんでしょうね? この店は初めてでしょう? そう・・・。 お名刺を戴けませんか。 生憎と、今日は持ち合わせがなくて、・・・。 お強そうね。 どんなお仕事をなさっていらっしゃるんですか? 仕事?・・・どうやら、飲み過ぎて忘れてしまったらしい。 -Aug/1/1999-
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