[小説 時] [156 試練] |
156 試練
見送りの女達に手を振って、男は歩き出した。暫くして、背中に扉を閉じる音が届いた。外は道路も雪も凍り付いていた。頭痛がした。酔いが醒め始めたせいかもいれない、或いは、空気が冷え切っているせいかもしれない、・・・。凍った空気が繊維の小さな隙間から容赦なく入り込んで来た。どんなものも、これを防ぐことはできない、これは試練なのだから、と考えていた。 雪は、相変わらず急がなかった。だが、急がなければならない、・・・。 歩けるか? 大丈夫だ。・・・何処へ行くんだ? 帰るんだよ。元の所へ、・・・。 車を呼んでくれ。 車は来ない。 おい、冗談は止めろ。 これは、冗談じゃないんだ。 それじゃ、戻る。 いや、戻る訳にはいかない。 お前は誰だ? この「時」を待っていた男だよ。 -Aug/1/1999-
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