[小説 時] [158 危険] |
158 危険
暫くすると、男は自ら立ち上がろうとした。滑稽な努力が続いた。しかし、立ち上がることはできなかった。足元が凍っていたし、何よりも酔っていた。それでも、横になった儘でいることはできない事情があったのだろう、何度目かには街灯の支柱に蹲りながら、ゆっくりと立ち上がった。いかにも苦しそうな息使いが聞こえて来る、・・・。支えることも容易ではないのだろう顔を持ち上げて、必死に何かを捜そうとしていた。それは、今の自分を支えることができるものならどんなものにも、それが例え、それまで執拗に忌避しようとして来たものであったとしても、縋り付きたい、・・・そう言っているように見えた。その藁にも等しい目に合うと、消え入りそうな声で、車はまだか、と言った。・・・車は、来ない、・・・。それもほんの一瞬だった。一言に残っていた力の全てを賭けたのだろう、その儘元の位置に倒れ込んでしまった。
あれ程の努力を、何故もう少し早く、してはくれなかったのだろうか、・・・自らの手で、自らの身体で、自らの意志で、・・・何故してくれなかったのだ!・・・望んでいたのは、たったそれだけのことだ、それさえがあれば、こんなことにはならなかったのだ! -Aug/1/1999-
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