[小説 時] [159 気配] |
159 気配
果して、この儘諦めることができるのだろうか、次を待つことができるのだろうか、・・・。これまでづっと待ち続けて来た、これからも待つことはできるかもしれない、恐らく、できるだろう、・・・しかし、その結果が、改めて次を待つと云うことだとしたら、・・・。それは充分に有り得ることだ、・・・とすれば、何のために待つのだろうか、待つことにどんな意味があるのだろうか、・・・。もう一度戻ることは、できないのだろうか、・・・。酔いが醒め始める時のあの寒さに、震えが止まらなかった。曲がり角までは幾らもなかった。何度か振り返ってみた。全く動く気配はなかった。此処を曲がり切れば、駆け出そうと思っていた。しかし、明りの下に何時の間にかマフラーを振り解いて立っている男を見た時、この次はもうあり得ないと云う予感がした。 何処へ行こうとしているのだろうか、・・・。定まらない足で歩き出した男が最初に転んだ時には、危うく街灯に頭をぶつけるところだった。すぐに、ゆっくりとだったが、立ち上がった。そして、二三歩進むと今度は雪の中に倒れ込んだ。消えたように姿が見えなくなった。雪の中で必死の努力をしている男を想像することができた。 引き返してみると、男は雪の中へ顔を埋めるようにして倒れていた。諦めてしまったかのように、動かなかった。腕を取って抱き起こした。自らの身体を支えることさえも容易ではないのだろう、確かめるように、ゆっくりと立ち上がって、そして、体重の全てを浴びせ掛けて来た。苦しそうな息遣いが、太い腕を伝って来た。 男は、暫くの間、身体を預けた儘、動かなかった。何時までもこうしている訳にはいかない、しかし、もう代わりに男を支えてくれるものは何もなかった。・・・どうすれば良いだろうか、・・・。 まさか、男が急に動き出すとは想像もしていなかった。 -Aug/1/1999-
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