[小説 時] [164 舞台] |
164 舞台
おかしいな。・・・いない、・・・。帰ったのかしら。 まさか、・・・とても一人で歩けるような状態じゃなかった。 きっと、車が捕ったのよ。 いや、そんな筈はない、・・・。それは無理だ。 あれは何?・・・マフラー、・・・? ・・・・・。 あの男のものじゃない、・・・。 此処で待っていて下さい。・・・少し捜してみます。 わたしも一緒に、・・・。 いえ、あなたは此処で待っていて下さい。すぐに戻ります。歩いてなら、そう遠くまでは行っていない筈ですから、・・・。 駆けながら、女の言うように、車を捕まえて帰ったと云う可能性はあるのだろうか、と考えていた。車を捕まえるためには、まず側溝から這上がる必要がある、しかし、そんなことは考えられないことだ、仮に這上がることができたとしても、そこには濡れた身体を引き摺った跡が残るに違いない、しかし、あの場所は、あの時の儘だった、・・・。 もう何も恐れることはない、舞台の幕を降ろしたのは、あの男自身なのだから、・・・そして、この幕は二度と上がることはないのだから、・・・。 女が駆けて来た。慌てようを見ると、それがどう云うことかはすぐに解った。男は、やはり、全ての欲望を止揚したのだ、そして、そうすることによってしか得られない休息を望んだのだ、・・・。それが良い、・・・それで良い、・・・。 -Oct/3/1999-
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