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[小説 時] [174 灰皿]

174 灰皿

 店を出た。冷たい空気を吸い込みながら、これから始まる最後の一幕が、無事に済んでくれれば良いと考えていた。
 襟を立てた。警察までは僅かな距離だった。
 警察の建物に入ると、何組かの人の塊が目に付いた。その内の何人かは、遅れて着いた二人の姿を見付けると、額を寄せ合いながらの話を打ち切って、駈け寄って来た。何処で聞き込んだのか、昨夜の様子を知りたくて朝早くから集まって来た彼等は、只、「後にしてくれ」と言うばかりの二人が、不満だったに違いない、・・・。
 受付で名前を告げると、すぐに昨夜の警官の一人がやって来た。その警官の先導で、階段を昇り、左に折れ、同じような扉の並ぶ廊下を進んだ。そして、突き当りの近くまで来ると、二つの部屋を指さして、一人づつその前で待つようにと言いながら手前の部屋に入った。警察は客を待たせなかった。すぐに扉は開いた。
 そこは、昨夜の部屋とは違って、机と椅子が並んだ、いかにも会議室と云ったような部屋だった。二人の背広を着た男がそこにいた。椅子から立ち上がって簡単な挨拶を済ますと、若い方の男が席を進めてくれた。
 陽当りの良いその部屋は、暖房も利いて暑い程だった。

 煙草は吸われますか?
 えっ?
 煙草ですよ。吸いますか?
 ええ。
 灰皿を持って来て。・・・いや、二人共吸わないものですからね。
 そうですか。
 昨日は良く眠れましたか?
 何んとか、眠りました。できれば、もう少し休みたかったんですが、・・・。
 それは良かった。

-Jan/22/2000-

・・・つづく・・・



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