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[小説 時] [184 被告]

184 被告

 父と叔父が戻ったのは、それから大分経ってからのことだった。僅かだが、しかし、恐ろしい程の間があって、姉が弾かれたように階段を駈け昇って来た。その音は、警察での惨めな半日よりも、遥かに、耐え難いであろう時を予感させるものだった。

 やっとの思いで着替えを済ませてからも、なかなか階段を降りる決心はできなかった。長い間自分を支えていたものが、ゆっくりと萎え始めていた。恐らく、同じような質問が繰り返されるに違いない、今の自分はそれに耐えられるだろうか、・・・。しかし、姉の執拗な催促は続いた。兄が、挨拶回りから戻って来たようだった。玄関からは、身体に纏わり着いた雪を払い落とす音が聞こえて来た。暫くして、叔母が大きな声を張り上げながら飛び込んで来た。これで役者は、全て揃った。後は、被告の登場を待つだけになった。そして、腰を引きながら登場した被告を囲んで、身内の遠慮のない裁判は始まる、・・・。
 正月には決して似つかわしくない遣り取りが、途切れなく続いた。そんな中、何人かの親戚が、年始の挨拶に相応しいとは思えない顔付きでやって来た。

 あれから、まだ一日も経っていないと云うのに、・・・!

 彼等には、嘗つて貸方に載せたことのある金額と同じ額を、今度は借方に載せることになりはしないかと云うことが心配だった。あの時は相殺で済んだ。だが、今度の場合は、自分達にその材料がない、何時清算できるともしれない債務だけが残ってしまう、それが問題だった。だから、彼等は執拗だった。

 結局、できるだけ早くこちらから出向いて状況を説明した方が良いと云うのが、耐え難い堂々巡りの末の結論だった。父が電話を入れ、二言三言の簡単な話が済むと、早速出かけることになった。
 陽が沈むまでには、まだ大分間がある筈だったが、雪のために外は既に薄暗かった。

-Jul/15/2000-

・・・つづく・・・



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