[小説 時] [186 容態] |
186 容態
結局、顔を出したのは秘書と後援会の二人だった。慌ただしく動き回る人達を眺めながら、そう云えばあの時もこんな様子だった、と考えていた。・・・その何も生み出すことのない喧噪、・・・。前に座った三人は、例外なく他人の話に上の空だった。あまりの反応のなさに、父は何度も話を中断しなければならなかった。暫くして、定まらない視線の先に、白衣の看護婦を従えた背広姿の医者を認めると、三人は弾かれたように立ち上がった。医者はそれに気付くと、竦んだように立ち止まって、獲物に襲い掛かるような勢いの男達を待った。そして、問い詰めるような手振りの男達を制して、ゆっくりと歩きながら話し始めた。話声は聞こえなかった。しかし、医者がそこにいたと云うことだけで、何があったのかはもう改めて聞くまでもなく明かだった。 男達が戻って来た。一様に押し黙った儘、椅子に腰を降ろし腕を組んだ。 どうしたんだ? 別に、お気遣い戴くようなことはありませんので、ご心配なく、・・・。 そうかな?・・・あの慌てようは普通じゃない。・・・そんなに具合いが悪いのか? 今朝早くに警察から連絡が入ったそうで、それを聞いて倒れたと云う話ですがね。 まだお話できるような、・・・。 構わんよ。幾ら隠そうとしても、こんなことはすぐに知れ渡る。 しかし、・・・本当にまだ何も、・・・。 後継のことか? 何しろ、肝心の親父が口を利けないもんですからね。そのことでは、みんな頭を抱えているんですよ。・・・難しいことになりますよ、これは。 その話は、もうそれ位にして下さい。 容態はどうなんだ? 大事を取って入院させることになりました。もうすぐ病院の車が着くでしょう。 大事を取ってね。・・・なる程。・・・それじゃ、今は会う訳にはいかんのだろうな? あんな状態じゃ、会っても無駄ですよ。 こんな時に、そんな言い方は不謹慎でしょう! 秘書のお前さんが今からそんなに苛々しているようでは、これから先が心配だな。 -Jul/15/2000-
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