【日本語を読むための漢字辞典】 『国字の定義』
国字(こくじ)という用語は、次の4つ、細分化すれば6つの場合に使われる。
1. その国の国語表記に用いられている文字の総体。
日本の場合は、漢字のほかに、ひらがな・カタカナ・ローマ字などを含む。国家が公式に認めている文字か否かは関係がない(日本の場合、国が定めているものは常用漢字・人名用漢字・JIS漢字など一部にすぎない)。「国語国字問題」・「ローマ字国字論」などと使う。
2. 漢字に倣って中国以外の国で作られた漢字体の文字。
広義では方言文字・職域文字・個人文字や仮名合字も含む。学者によって定義・解釈が異なり、調査が不十分であるなどの理由から、国字とされる文字にも疑義がある場合が多く、逆に猟渉が不十分なため漏れた文字も多い。
ア) 日本で、漢字に倣って作られた文字。
峠(とうげ)・榊(さかき)・畑(はたけ)・辻(つじ)など古く作られたものと、西洋文明の影響で近代に作られた膵(スイ)・腺(セン)・瓩(キログラム)などがある。主に訓のみであるが、働(はたらく・ドウ)のように音があるものもあり、鋲(ビョウ)・鱇(コウ)など音のみしかないものもある。会意に倣って作られることが多い。和字・倭字・皇朝造字・和製漢字などとも呼ばれる。
中国などにあることを知らずに作ったと考えられる文字〔「俥(くるま・じんりきしゃ)」・「閖(ゆり・しなたりくぼ)」・「鯏(あさり)」など〕や漢字に新たな意味を追加したもの〔「森(もり)」・「椿(つばき)」・「沖(おき)」など〕は、国字とは呼ばず、その訓に着目して 国訓と呼ばれる。
中国などで意味が失われているもの〔「雫(しずく)」など〕は、中国などで失われた意味が日本に残った可能性も否定できず、国訓ともいえない。国訓のある文字に着目して、国訓字と呼ばれることもあるが、一般的ではない。
〔「鱈(たら)」など〕のように中国に輸出されて定着した国字もある。〔「鰮(いわし)」・「鱚(きす)」など〕のように、中国においても漢字本来の意味で使われず、日本で使われる意味を輸入した文字もあるが、これらの文字は、漢字本来の意味が別にあるため、国字ではない。
『
和製漢字の辞典
』や『
和製漢字の小辞典
』で使っている国字はこの意味である。
イ) 日本以外でも日本の場合と同様に、朝鮮国字・字喃(ベトナム国字)が作られている。
日本の国字と異なり、主に形声に倣って作られている。朝鮮国字の場合、構成要素に漢字の他、ハングルが使われる。日本同様に漢字に意味を追加したものを朝鮮では国義字といい、音を追加したものを国音字と呼ぶ。
(参考)女真文字・西夏文字・契丹文字も漢字に倣って作られたが、その民族の国家が滅亡して長期間が経過したためか、国字とは呼ばれない。壮族の作った古壮字も漢字に倣ったものであるが、中国の一少数民族であるためか、国字とは呼ばれない。
3. 次のように漢字仮名交じりにすること。
ア) 漢文を、日本文で漢字仮名交じりにして平易に説明する。
普通「漢籍国字解」という。この「漢籍」の部分に題名を入れることもある。
イ) キリシタン版のローマ字を漢字仮名交じりにする。
「ローマ字本」に対して「国字本」という。国字の前に題名を入れることもある。
4. 2.以外の方法で作られた日本の仮名や朝鮮のハングルのことを指す。