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【冷-令+土】 高知県高岡郡窪川町に[冷-令+土]の川(ぬたのかわ)がある。窪川町税務課及び町民課で聴取により調査した結果によると、辞書などにある「汢ノ川」はこの地名の誤りであることがわかった。この情報は、『JIS X 0208:1997附属書7(参考)区点位置詳説』にも反映していただいたが、漢和辞典等でこのこと書いているのは『漢字源』のみである。『漢字源』は、この文字を掲出したことは評価できるが、「汢」の異体字と扱っており、地名は「汢ノ川」のままで、[冷-令+土]の川(ぬたのかわ)に訂正されていないのは残念である。
【垉】
『龍龕手鑑』に「歩交反」とあるが義未詳であり、『漢韓最新理想玉篇』には「掘也」とあるが典拠が示されていない。『名義抄(観智院本)』・『字鏡鈔』・『字鏡抄』・『字鏡集寛元本』など日本の古字書にも「歩交反」と反切を示すものがあり、中国の影響と考えられるが、『漢韓最新理想玉篇』の意味と一致するものはない。『音訓篇立』に「ツカル カフル」とある。愛知県豊田市東保見町に字垉六(ほうろく)がある。笹原宏之著『「JIS X 0208」における音義未詳字に対する原典による同定』に、「従来知られていなかったが、この地名から1978JISに採用されたものである。『国土行政区画総覧』は1979.04に「[圦-入+包]六」に1993.10に「抱六」にかえられたが、役所のオンラインでは「[圦-入+包]六」となっているという」とある。
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『音訓篇立』に「サイ音」とある。『国字の字典』が『広辞苑』から「そく 奈良時代に唐から伝来した漆工技術の名称。(略)俗に乾漆という」と引用して国字とする。『日本考古学用語辞典』の「乾漆」の項に「中国で[圦-入+塞](そく)ともいわれ、夾紵ともいわれている」とある。『中華字海』などにはみられないが、漢字ではないかと考えられる。『JIS X 0213:2000附属書6(規定)漢字の分類及び配列』(第3水準漢字集合)「用例及び用例音訓(参考)」に「国宝「宝相華迦陵頻伽蒔絵[圦-入+塞]冊子箱」」とある。
【妛】
苗字に妛芸凡(あきおうし)がある(丹羽基二著『苗字 この不思議な符牒』(丹羽基二編『日本苗字大辞典』は[山*女]芸凡とする)。[山*女]の字は、『中華字海』が魏時代の墓誌に見られる文字として「同安」とする。苗字の例も「安」の異体字と考えられる。笹原宏之著『「JIS X 0208」における音義未詳字に対する原典による同定』に、「従来[妛-山+屮]の異体字とされていたが、原典とした『国土行政区画総覧』で滋賀県犬上郡河内通称[山*女]原(あけんばら)の[山*女]の字の作字をした際に紙の影が写り、JIS選定時に「妛」と誤認され転写されたのである」とある。「妛」の字で、『字鏡鈔』・『字鏡抄』・『字鏡集寛元本』に「シ 之 アサムク」、『字鏡集白河本』に「シ アサムク」とあり、この場合は[妛-山+屮]の異体字であろうか。また[山*女]の字で、『名義抄(観智院本)』などに「アサムク」、『温故知新書』に「アケヒ」とある。その他実例は笹原宏之著『「JIS X 0208」における音義未詳字に対する原典による同定』に詳しい。
【恷】
多くの漢和辞典で音義未詳とされたり、類推音が付けられたりしている文字である。『JIS X 0208:1997附属書7(参考)区点位置詳説』に「JISの原典典拠は日本生命人名表。ただし、用例は不明。NTT固有名に恷志(ヤスシ・ヨシユキ)など19件の用例がある」とある。このことから「烋」の異体字と考えられる。『新刊節用集大全』に行書体で「烋 さいハひ」、楷書体で「恷」とある。それぞれ「述」の字のように右肩に点がつくが、手書き時にはよくおこることで、「烋・恷」と同字と考えられる。「烋」の字の[烋-休]を「心」の崩れたものと考え、楷書化する際に「恷」の字を作ってしまったという歴史は、1600年代まで300年も遡る可能性が大きくなったといえよう。10世紀の中国の書籍を元に作られた『楷法辨體』に「煎」の俗字として[恷-休+前]があることを考慮すれば、中国でもこのような変化が起きる可能性は否定できないが、中国の辞書などに発見できないので、現時点では「烋」の和製異体字としておく。『大漢語林』に「音義未詳。烋の誤字か。」とあるのは、誤った類推ではなかったことがわかったといえる。漢和辞典などで「キュウ」という音や「もとる」という訓がつけられたりすることがあるが根拠があるのだろうか。
【膤】
笹原宏之著『JIS漢字と位相』に「熊本県水俣市の地名に膤割(ゆきわり)がある」とある。のち同氏によって、これがJISの典拠であったことが確認され、『JIS X 0208:1997附属書7(参考)区点位置詳説』に「JISの典拠は『国土行政区画総覧』にある熊本県膤割(ゆきわり)。膤割(ゆきわり)の読みは現地の役所に確認済。」と書かれた。
【椦】
『玄應一切經音義』に「[村-寸+卷]律文作椦非體」とある。『字鏡鈔』に「ちきり」とある。この場合は漢字と同義である。『JIS X 0208:1997附属書7(参考)区点位置詳説』に「群馬県前橋市[村-寸+勝]島(ぬでじま)町が『国土行政区画総覧』に現れながら未採録であり、おそらくこの“ヌデ”字の誤写であろう」とある。『玄應一切經音義』の典拠は、私が発見し、通産省に送ったことから『JIS X 0208:1997附属書7(参考)区点位置詳説』に暗合としてのったものであるが、これ以前にも「ちきり」と解説したものはあった。『玄應一切經音義』・『字鏡鈔』以外の典拠をご存知の方はご教示をお願いします。
【椪】
笹原宏之著『「JIS X 0208」における音義未詳字に対する原典による同定』に、JISの典拠として『国土行政区画総覧』から「宮崎県東臼杵郡北方町 三椪(みはえ)小学校・中学校」が引かれている。苗字に椪田(はいだ・はえだ)がある。『国字の字典』にある「椪柑(ぽんかん)」は中国でも同じ表記である。国字ではない。